- データの示し方:「まとめて」示せ(統合法)
- 自然と視線の移動を誘うテクニック
- 情報は発信地から離れるほど正確性がないと思っていい
- 連想法を用いて企業や自分のイメージを良くする方法
- 職場で部下のやる気を引き出す心理テクニック
- 「意外性」を出すことで、いくらでも利益を向上することが出来る
- 後発の企業が一位になる秘訣
- 頼みごとはよく晴れた日にしなさい
- 接待の科学的効果
- 非合理エスカレーション、「共倒れ」の心理分析
- 相手の意見や行動を変えるコツ
- 「煮つまった会議」で、アイデアを次々と出させるテクニック
- 期待をかけることによる絶大な効果
- 相手の思考を妨げることで、説得しやすくなる
- 人間は一位のものにしか興味がない
- 眠気覚ましだけじゃない!コーヒーの隠れた効用
- お店が混雑しているほうが、お客様の買い物満足度が上がる
- 地位の低い人からの意見は採用されない
- 贈り物はビジネスに効果的?
- 人間は他人の話を聞く時、どうしても身構えてしまうものだが、自然体でいるときに はこの防御がまったく働かない
- データの示し方:「分けて」示せ(分割法)
- 根拠の薄いデータでも、何度も何度も繰り返し提示するだけで信憑性のあるデータに化ける
- スーパーマーケットの心理法則
- 相手を安心させるなら右側から迫ること、逆に相手をやり込めたいなら左側から迫ること
- 緊張を和らげる最も手っ取り早い方法
- 売リ文句の法則
- 瞬時のひらめきが熟慮に勝ることがある
- 素早い判断が出来る人になる方法
- 話すら聞いてもらえない相手の興味を自分に惹きつける営業テクニック
- 電子会議やEメール会議は有効か?
- 依頼・交渉・懇願は、ホーム・グラウンドで行う
- 理由や裏づけさえあれば、人間は納得する
- 「フレーミング」の心理法則を用いて、相手の判断を枠にはめるテクニック
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データの示し方:「まとめて」示せ(統合法)
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
マーケティング・リサーチは重要だ。
言うまでもない。
だが、マーケティング・リサーチの結果と自分の願いが食い違ってしまったとしたらどうするか?
つまり、あなたとしてはぜひとも市場に出したい製品なのだが、マーケティング・リサーチの結果があまり芳しくないものだったとしたら?
もちろん、会議でみんなを納得させることができれば、製品として世に送り出すことができる。
ところが、あなたは話しべたでとても参加者を納得させられそうにない。
話しべたでも、リサーチ結果が吉と出てくれればそのデータをもとに押しきることもできたのに…、
しかし、あなたの感性が、あなたの全身が、必ずその製品は売れると信じている。
もし無理に市場に出してさっぱり売れなかったら、責任をとって会社をクビになっても悔いはない。
それほど自分では押したい製品なのだ。
あの売れに売れたクリスチャンディオールの香水プワゾンでさえ、マーケティング・リサーチの結果は惨たんたるものであった。
フランスでは売れても、日本では絶対に売れないとさえ言われた。
マーケティング・リサーチでは「匂いがきつすぎる」「強烈すぎる」とされ「あなたは購買すると思いますか?」と尋ねたところ、女性たちから「買わない」と言われた。
だが、いざ売りに出してみると、オリジナリティがある、といった理由で爆発的に売れたのである。
自分の製品も売れるはずだ。
マーケティング・リサーチの結果が多少まずくても、売れるはずだ。
それならいっそ、企画を通すためにデータを「メイキング」(簡単に言うと、「でっちあげて」しまうこと)して会議にかけようか……。
そんな悪魔のささやきすら聞こえてくる。
しかし、データをメイキングする必要などない。
少なくとも、次のようなデータなら、やり方しだいで参加者を納得させることができるのである。
問:この製品を購買したいと思いますか?(価格は無視して回答してください)
絶対に購買したい 17%
購買したい 13%
購買してもかまわない 12%
よく分からない 23%
あまり購買したくない 22%
購買しない 10%
絶対に購買しない 3%
パッと見た感じ、「買いたいと思っている人が少ない」との印象を受けたのではないだろうか。
また、「あまり購買したくない」と答えた人が結構いるな、との印象も受けたはずである。
したがって、このデータをそのまま見せるのはためらわれるだろう。
それなら、どうするか。
ここで一つののテクニックを使うことにしよう。
それは、「統合法」……自分に有利なように数字をまとめよ……、というテクニックだ。
つまり、「よくわからない」という項目を抜きにして、製品を購買したいと思っているグループと、購買したくないと思っているというグループに統合するのである。
すると、次のようになる。
間:この製品を購買したいと思いますか?
購買したい 42%
購買したくない 35%
どちらともいえない 23%
実は、心理実験からは、次のような原則が導かれているのだ。
相手の興味・関心が薄い場合、強いデータを先に出しなさい。逆に、興味を持ってくれている場合には、最後の最後にそのデータを示しなさい
これは、スボンハーグという心理学者によって明らかにされたことだ。
スボンハーグによると、相手が気乗りしない場合、初めに目の覚めるようなデータを示して興味をこちらに引きつけることが大切だという。
もしこれで動かなければ、最後に持っていってもしょせんは無駄だからである。
逆に、こちらの話に乗り気な場合には、なるべく関連する他のデータで証拠固めをしながら、最後の最後で強烈なデータを見せるほうがインパクトは強くなるというのだ。
この実験結果を活用すれば、資料の順序は、お客の興味しだいで変えていくと効果的ということになる。
優秀なセールスマンは2種類の資料を作るべきで、玄関先で断られそうな場合には強烈なデータが一面に載せてある資料、少しでも話を聞いてくれる素振りのお客には最後の最後でそれが示される資料、の2つを用意すべきなのだ。
とはいえ、2種類の資料を使い分けるのはちょっと……というセールスマンもいよう。
そんな人は、まず「最初に」強烈なデータを示す資料づくりを心がけるべきである。
というのも、「最初インパクト説」を指示する実験結果が多いからである。
たとえば、ペニントンという心理学者がいる。
彼は、大学生を使って模擬的な裁判場面を再現してみた。
具体的には、ハリソンというレイプで起訴された人物に対し、もっとも強い有罪証拠を 「最初に」出した場合と、「最後に」出した場合との影響力を比較したのである。
すると、有罪証拠が「最初に」出された時に、陪審員役の大学生たちは「ハリソンは有罪だ!」と宣告する確率が高まった。
つまり、最初に強いデータを突きつけたほうが、効果的だったのだ。
次の表は、実験に参加した陪審員たちの評決結果である。
| レイプ犯として有罪 | 未遂である | 無罪 | |
| 「最初に」有罪証拠 | 22 | 14 | 12 |
| 「最後に」有罪証拠 | 10 | 23 | 15 |
この結果をペニントンはこう解釈する。
最初に結論を出しておけば、相手はその結論を自分の頭の中で何度も反窮して考えてくれる。
そのぶんだけ、記憶に残りやすいのではないか、と。
セールスマンにとっては身もふたもない言い方だが、ほとんどの消費者はセールスマン、特に訪問販売のセールスマンを嫌っていると考えておいたほうがよい。
だからこそ強烈な資料は「最初に」示すべきなのだ。
会社によっては、セールスマンが携帯する資料が小さな文庫本くらいの厚みになっていいることもある。
たしかに、資料が多いのは良いことなのであるが、興味のないお客に話をわかってもらうためには、目を引くデータを載せたビラ一枚の方が効果的なこともあることを理解しておこう。
会社から渡されたからといって、その資料をそのまま使う必要はない。
自分自身の判断で、短い切り抜きを作ってしまい、それをもとにセールスをしてもいいわけである。
会議で使う資料のなかにも、作った本人の生真面目な性格がそのまま出ている資料がある。
厚みは十分あり、内容も悪くないのだが、「一番言いたいこと」がよくわからず、発表を聞いているうちに、しだいに眠くなるような資料だ。
こうした資料に時間や労力をかけるくらいなら、思い切って、A4用紙一枚くらいに必要なデータだけを載せた紙を配るようにしたほうがよい。
資料は長さではなく、読みやすさ、理解のしやすさ、が重要なのである。
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自然と視線の移動を誘うテクニック
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
会議では、何らかの資料が参加者に配られる。
そして会議の進行は、この資料に基づいて行われることが多い。
ひどい会議になると、参加者全員がこの資料に見入ってしまい、話し手やプレゼンテーターのほうを一度も見ない、という現象が起きる。
資料だけを見せるのなら、わざわざ人々が集まる必要はないのであるが、日本人だけが行う会議では、しばしばこうした現象が起きやすい。
もしあなたが会議を主導する立場にあるか、プレゼンテーションを行う役割にあるのなら、参加者が資料に釘付けになるのを避けるべきである。
というのは、いくら資料が優れていても、「あなた」という個人に関しては、まったくなんの印象も残すことができなくなるからである。
おそらく「無能」とまでは思われないにしろ、あなたに関しては「無関心」という状況に陥りかねない。
もちろん、これでは出世の道も遠のいてしまう。
業績の悪いセールスマンも、同じようなワナにはまっていることが多い。
つまり、相手に手渡した資料ばかりが注意を引いてしまい、あなた自身のことや、あなたの会話では、相手に興味を抱かせることができないのである。
そのため、「この資料をよく読んでから返事をしますので、今日のところはお引き取りください」と軽く扱われてしまうのだ。
アーガイルとグレアムという心理学者は、二人の参加者の間に地図を置き、ヨーロッパ旅行の計画を立てさせるという実験を行った。
すると、二人のアイコンタクトは、地図を置かない場合の77%からわずか6.4%にまで減少してしまい、相談時間の80%は地図を見たままで行われたという。
一概に視線を合わせることが必ずしもよいとは言えないが、視線を合わせなければ好意的な印象を与えることが不可能であることから考えると、これは好ましい事態とはいえないだろう。
さて、こうした事態を避けるには二種類の方法がある。
一つは、声のトーンをあげて注意を引く方法。
もう一つは、次に述べる「パワー・リフト」という方法である。
ちなみに、声を張り上げる方法は、資料を読んでいる相手を意識的に邪魔するテクニックであり、したがって、時として嫌がられる可能性が高い。
一方、パワー・リフトのほうはもっと自然な方法である。
ここでは、パワー・リフトについて説明しよう。
パワー・リフトというのは、ボールペンや指などを使い、相手の視線を資料からあなた自身へと、自然と視線の移動を誘うテクニックである。
「パワー」という言葉からわかる通り、パワー・リフトも、「パワー・プレイ」の一種である。
しかしながら、パワー・リフトは「パワー」という言葉に似合わず、相手に強制力を与えるわけではないし、洗練された自然な流れで実行可能であるという強みがある。
よくOHPやプロジェクターなどを使ったプレゼンテーションの場合に長い棒を持つのは、パワー・リフトを行うためなのである。
ただし、同じように棒を握っていても、相手の視線を動かすのがうまい人と、そうでない人はいるから、やはりある程度の訓練は必要であろう。
私は、会議参加者、あるいは顧客の手元に配る資料は、少なければ少ないほどよいと思っている。
資料を配らず、口だけで要点を説明して納得させるのが一番優れている方法なのであるが、口下手な人にはちょっとつらいかもしれない。
だが、資料に頼るビジネスマンは、えてして「資料負け」する傾向があるように思われる。
そのため、パワー・リフトを有効活用しなければ、好印象を与えることはできないし、自分の存在をアピールすることは難しいと言えるのだ。
優れた手品師は、人さし指を立てて話をすることで、観客の意識をうまく手の動きに向けさせる。
そして、観客の意識をはずしたところで、もう一方の手で隠された作業を行う。
もちろん、手品師の使うテクニックは、心理学的に言うとパワー・リフトであるが、それは誰にもわからないのである。
あなたが「影が薄い」という印象の人ならば、パワー・リフトで強烈なアピールを心がけよう。
そうすれば、周りの人はあなたに視線を向けるはずである。
本当の勝負はそこから始まるのだ。
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情報は発信地から離れるほど正確性がないと思っていい
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心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
「海外で売れた」は本当か?
どうも日本人はデータを過信するところがある。
数字という魔物に翻弄されるのはしかたがないとしても、あまり過信しすぎるのは考えものだ。
ビジネスではどこにでも数字がついてまわるのだが、データをどの程度信用すればいいのだろうか。
ここではどういうデータを信用し、どういうデータを信用してはならないかを考察しよう。
よく工場などで行われる生産性についてのデータ。
これは一般に信頼できる。
たとえば、月々の生産量はほぼ一定しているものだから、生産高がガクンと下がるようであれば、機材のどこかに異常が発生していると推測してほぼ間違いないのである。
次に、マーケティング・リサーチのデータ。
これも一般には正しい。
たしかに、調査ではよかったのに、市場に出したところさっぱり売れ行きが伸びない、ということはありえる。
が、ほとんどの場合、そうした心配は杷憂である。
昔のマーケティング・リサーチと比べ、最近ではコンピュータを使った高度な解析ができるから、きちんとしたデータさえとれれば予測精度は相当に高いのである。
では、海外から入ってくるデータはどうか。
これはかなり怪しい。
つまり、フランスで売れたとか、アメリカで売れた、というのはあまり信じないほうがいいのである。
なぜなら、心理学の調査によると、
データ発信地から離れれば離れるほど、そのデータの正確性は失われる
ということがわかっているからだ。
データ発信源が遠いほど、その間に人間が介入することが多くなるわけで、人間の憶測とか希望といったものがデータに入り込んでくる余地が増えてしまう。
情報としてのデータの精度は、離れれば離れるほど悪くなるのである。
1964年、アラスカでマグニチュード8.4の地震が起きた。
この地震による被害でどのくらいの死者が出たのであろうか。
クアランティリイという心理学者が新聞のデータを丹念に調べたところ、奇妙な出来事に気がついた。
つまり、地震の震源地から離れた地域の新聞ほど、死者の推定値を誤って見積もっていたのである。
次のデータを見てほしい。
これは震源地のアラスカから遠い地域で発刊されている新聞から順番に死者の推定数を示したものである。
| オハイオ州コロンバス | 1000 |
| シカゴ | 500 |
| シアトル | 300 |
| アンカレージ | 100 |
どれもこれもとんでもない数値だ。
というのも、実際の死者数はたった7人だったのだから。
新聞という公共のメディアでさえ、このような間違いを犯すのである。
データというのは、データをとった地域から離れるほど、とんでもない結果になってしまうのだ。
別の例では、東京で「たれぱんだ」というキャラクター商品が売れに売れていることが、テレビ等で大きく報道されていたことがある。
しかし、東京で売れたこの「たれぱんだ」は関西地区、とりわけ大阪ではそれほど売り上げはよくなかったという。
見方を変えれば、東京で売れたというデータは、関西地区にはそれほど役立たなかったのだ。
人の好みには地域性があるのだから、当然、データにも地域性がある。
したがって、鹿児島や沖縄でとったデータが北海道で通用するかというとそうでないように、海外で売れたという情報もある程度疑ってかからなくてはならないのである。
もうひとつこんな調査がある。
1986年にチェルノブイリで悲惨な原発事故が発生した時に、ニューヨークの新聞は死者2000人と報道し、旧ロシアの新聞は死者2人というデータを出した。
これは、政治的背景、情報統制、恐れ、希望など人々の様々な思惑や感情が、「主観的データ」を形成してしまうことを示す非常によい例である。
結論。
離れた地域から得られたデータを過信しないこと。
「インターネット時代だから、生の情報がすぐに手に入る」からといって安心してはいけない。
むしろ、情報が手に入りやすいぶん、さらに警戒心を強める必要がある。
距離的・時代的な差がある時には、普段のデータよりもずっと疑ってかかるべきなのだ。-----
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連想法を用いて企業や自分のイメージを良くする方法
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
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各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
連想法によるイメージ戦略
イメージは重要である。
イメージは、企業だけでなく、人物にも当てはまる。
イメージという言葉は日本語にしづらいのだが、「印象」という意味だけでなく、「評判」とか「噂」などの意味も含まれるだろう。
「信用」と言ってもよいかもしれない。
つまり、良いイメージを勝ち取るということは、評判を良くする、製品の品質に信用がおかれる、一種のブランドと見なされる、ということと同じなのである。
だからこそ、企業はロゴマークを作ってみたり、「我が社はクリーンな会社です」といった宣伝を打ち上げることで、懸命にイメージ戦略をしているのである。
これは人間の場合も同様だ。
「あいつは仕事ができる」「あの上司は信頼できる」「時間に正確だ」などのイメージを他者に植えつけるために、人々はあれやこれやの手管を使っている。
ちなみに、日経連調査によると、新入社員がその会社を選ぶ一番の理由は「イメージが良かったから」(35.3%)だそうである。
こんなことは、もはやビジネスマンの常識であり、わざわざ取り上げる必要はなさそうに思われる。
だが、ちょっと待ってほしい。
あなたは、他人にイメージを良くする方法として、「具体的に」どんな方法を知っているのだろうか。
あるいはすでに実行しているのだろうか。
もし具体的な戦術について知らないなら、それはまったく無駄である。
「イメージを良くしよう」というのは確かに正しいことなのだが、具体的なやり方について知らないのなら、小学校の校長先生の訓話と同じではないか。
ビジネスマンに必要なのは無意味な抽象論ではなく、できるだけ具体的な戦略なのである。
企業にも人物にも応用できる、一番手っ取りばやい方法が「連想法」だ。
つまり、
すでに良いイメージを持たれているものと、自社(あるいは自分自身)を結び付けて提示する
るのである。
それだけで良いイメージがあなたに伝染することになる。
たとえば、現在では森林伐採への問題意識からか、人々は「自然」に大きな注意を払うようになってきた。
週末になると森林浴に行くという都会のビジネスマンも増えてきている。
そこで、自社のロゴ・マークの中に、「森林」に関連するものを使うのである。
エコ・マークの中にも木が使われているが、あのアイデアを少しだけ借用するわけである。
すると、それだけであなたの会社は、「環境問題への関心がある企業なのだな」というイメージを消費者に与えることができるばかりか、「自然派」「天然」といったイメージまでも与えることができるのである。
タバコを吸っている人なら誰でも知っている銘柄に、「マルボロ」がある。
今でこそ、マルボロのイメージは「西部開拓時代のアメリカ」であるが、もともとマルボロは女性用のタバコだったのをご存じだろうか。
ちょうど、現在の「セーラム」のような位置づけで、マルボロは市場に出されたのである。
もっとも、当時は女性の喫煙は今以上にいやがられた時代であるから、マルポロはさっぱり売れなかった。
そこでイメージを変える戦略として、「マルボロとカウボーイ」を組み合わせるパッケージに変更し、「マルボロは男の中の男が吸うタバコ」というイメージを与えたのだ。
もちろん、それ以来、マルボロが売れに売れたことは言うまでもない。
「テディ・ベア」に関連したイメージ戦略についてもご紹介しよう。
テディ・ベアはすでに日本でもお馴染みになった熊のぬいぐるみであるが、実は隠された秘話があったのである。
アメリカの歴代大統領のなかでも、特に人気の高い大統領のひとりに、セオドア・ルーズベルトがいる。
実は、このルーズベルト大統領こそ、テディ・ベアの生みの親だったのだ。
「テディ」というのは、「セオドア」の愛称だったのである。
話の発端は狩猟好きなルーズベルト大統領が、あるとき捕まえた小熊があまりに愛らしかったために、森に放してやったことに始まる。
この話を伝え聞いたオモチャ業者が考案したぬいぐるみこそ、あのテディ・ベアだったのだ。
ルーズベルト大統領も抜け目ないもので、テディ・ベアを自分の選挙のシンボルにして人気を呼び、有権者に「親しみやすさ」「愛らしさ」というものを強烈に植え付けることができたのである。
こうしてルーズベルト大統領は、二期八年の長きに渡る大統領生活を無難に勤めあげたのだ。
ビジネスマンの成功にイメージは不可欠だ。
どんなに仕事ができても、「冷たい人」というネガティブなイメージを持たれては、決して出世はできないし、仲間内でつまはじきされることになる。
そこで、自分自身と何か温かみを感じさせるもの(ボールペンでもバッグでもネクタイでもなんでもよい)を結びつける戦略をとるのはどうだろう。
例えば、私が懇意にしているセールスマンのひとりは、「いつも怒ったような」面貌の持ち主なのだが、バッグにつけたカエルのキーホルダーのおかげで救われている。
というのも、彼の面貌におよそ似合わないキーホルダーのカエル君は、いつでもにこにこと微笑んでおり、「こんなキーホルダーをつけている人が、悪人のはずはない」と周りの人が思い込んでくれるようだからである。
つまり、彼にとってカエルのキーホルダーは最高のイメージ戦略になっているわけである。
彼はそのことを知っているのだろうか。
もし知っていてやっているのなら、なかなかの食わせ者ではある。
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職場で部下のやる気を引き出す心理テクニック
トヨタの上司
トヨタは、社長や経営幹部など一握りのリーダーが、トップダウンで経営している会社ではない。
現場のリーダーを積極的に育成し、彼らが自律的に動ける環境をつくり、その能力を存分に発揮させている会社である。
トヨタでは、現場のリーダーをどのように育てているのか。
勤続40年以上の元現場責任者が証言する。
人間は、競争している時にはやる気が高まる
ビジネスは競争の世界である。
会社と会社の競争の場合もあるし、職場内で同僚たちと業績を競う場合もある。
一般に言えることだが、人間は競争している時には、やる気が高まる。
つまり、競争のない世界に生きているビジネスマンは、つぶさにやる気を失って隠居じみた感情にとらわれてしまうのだ。
「のんびりやろう」「ちょっと休もう」。
若いビジネスマンに多いこうしたつぶやきは、競争関係の少ない人に起こりがちである。
無難にノルマはこなすのだが、決してそれ以上の働きはしない。
「実力はあるだろうに、なぜ全力でやらないのか……」と歯がゆく思っている上司たちがどれだけたくさんいることか。
そこで、競争心をあおってやる気を出させる、意外な心理テクニックをご紹介しよう。
ロスとサミュエルスという心理学者の二人組は、どうすれば人々の競争心をかき立てることができるのか、という問題に真っ正面から取り組んだ。
といっても、彼らは意外と簡単な方法で、人々を競争的にできることがわかってしまったのだ。
それは、
競争心をあおり立てるには、「言葉を変える」だけでいい
ということだったのである。
つまり、二人で勝負するゲームをやらせるときに、同じゲームであるにもかかわらず、一方の人たちには「これは、ウォール・ストリート・ゲームといいます」と紹介し、もう嘉の人たちには「このゲームは、コミュニティ・ゲームという名前です」と告げてみたのである。
すると驚いたことに、ウォール・ストリート(世界経済の中心地)という名前を聞いた人たちの3分の2ほどが、いきなり競争的になり、大胆な勝負に出るようになったのである。
一方、コミュニティという名前を聞いた人たちのほとんどは、協力的で、安全な戦略しかとらなくなったのだ。
ボーデンハウゼンという心埋学者の実験例もある。
学生を被験者として模擬裁判を行ったところ、犯人の名前を「カルロス・ラミレツ(実際に存在した有名な犯罪者の名前を連想させる)」と紹介するか、「ロバート・ジョンソン(知的な人物を連想させる)」と紹介するかで、有罪宣告率がまったく違ってしまうという驚くべき結果が出たのである。
これもまた、言葉を変える効果を如実に示す例だ。
人間は、言葉によって影響を受ける。
したがって、従業員のやる気がいまいち高まらないのなら、部署名を攻撃的な名前に変えてしまうというのはどうだろう。
つまり、「人事部」とか「販売部」といったありきたりな名称ではなく、「先遣隊」とか「突撃隊」という名称に変えてみるのである。
バカバカしいと思われるかもしれないが、私はどこかの先進的な会社で、こうした実験を本気でさせてほしいと思っているくらいだ。
実際に「すぐやる課」という名称が流行しているではないか。
たとえば、人事部だったら「人を活かすための部署」、営業部だったら「お客様に喜んでもらうための部署」というぐらい簡単で、わかりやすく、ポジティブな意味合いを持たせた名称に思いきって変えてしまうのも悪くないと思うのだが、いかがだろう。
多くの会社で、ノルマ表や成績表などを壁に張ったりして、職場内の競争心を高める作戦をとっているであろうが、これは「半分」しか効果がないであろう。
今、半分しか効果がないと言ったのは、すでに成績上位にある人はますますやる気を高めるだろうが、成績の悪い人は、成績表を見るたびに「自分は駄目だなぁ」「給料泥棒だなぁ」と落ち込むだけという可能性があることだ。
もちろん、成績を競わせるというのも効果があるのだが、それだけではない、名称を変えるだけでも効果があるということを覚えておいていただきたい。
よく知られているように、国際間で戦争が始まると、敵側の国民は何らかの蔑称を与えられる。
アメリカ人は、日本人やフィリピン人、ベトナム人たちを「グーク」と呼んだし、日本人はアメリカ人を「鬼畜」と呼んだ。
こうした名前の変更は戦争状態の時に必ず起きる現象なのであるが、兵士たちの戦意を高めるには、こうした些細なところが、実に重要な意味を持っているのである。
もちろん、これはビジネスの場面にも使える戦略に違いない。
蔑称を用いるのはお勧めできないが、たとえば歴史上の戦いになぞらえて、自社側を「織田家」、ライバル会社を「今川家」だとイメージしてみるのも面白いかもしれない。
おかりだろうか、人間はほんの些細なことに、ずいぶんと影響を受けているのだ。
だから、部署名を変えるだけで競争心をあおったり、逆に協力心をあおったりできるわけだ。
このことは部署だけでなく個人にも当てはまる。
カウンセリングでは、「私はのろまでダメな人間なんです」と落ち込んでいる人には、「憤重なところがあなたの長所なんですね」というように、本人が短所と思っていることを長所だとしてフィードバックするテクニックがある。
そうすると、不思議なことに、本当に短所が長所に変わっていく、少なくとも短所が徐々に消えていくのである。
対象が個人であろうと、部署であろうと、ライバル会社であろうと、言葉によって「ラベル」をつける時には、慎重に、そして効果的に行うことを心がけよう。
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「意外性」を出すことで、いくらでも利益を向上することが出来る
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
現状を打破する。
意外性のあるアイデアを出す。
それが成功の鍵である。
この論法はビジネス世界の常識である。
市場が飽和してくると、販売額は安定してくるが、それ以上の利益は見込めないということが起こる。
こうした場合に必要なのは、「意外性」である。
つまり、どれだけ自由な発想で伝統を打ち破ることができるかが問題なのである。
ほぼ100%の女性が化粧をするようになったので、これ以上の利益は望めないのではないかと、かつて化粧品業界でささやかれた時期があった。
しかし、資生堂では、「女性といってもすべての女性が化粧しているわけではない。二十代以上の女性が化粧するのなら、十代の女性にも化粧させてやれ」という発想から、ティーンズ向け化粧品をつくって大成功をおさめたのだ。
さらに、ティーンズ化粧品で成功すると、「一日に一回でなく、何度も化粧させよう」といって、美容化粧品による意外な発想で成功、さらに「男性にも化粧させてやれ」ということで、男性化粧品も成功したのである。
つまり、意外性のある発想さえあれば、いくらでも利益向上は望めるわけだ。
古典的経済学の理論と矛盾するようであるが、意外性さえあれば、市場は飽和しないのである。
では、意外性あるアイデアの発現を妨げる要因は何なのだろう。
心理学では、意外性を妨げる要因を、「ヒューリスティック」と呼ぶ。
ヒューリスティックとは、面倒くさがる人間が、単純なルールによって思考を働かせてしまう原理を指している。
つまり、人間は自分の頭の中に「決まりきった」思考をするようなプログラムを作り上げてしまっているのである。
ヒューリスティックが起こることは、簡単な実験でも調べられる。
トヴエルスキーとカーネマンという心理学者は、次のような質問でヒューリスティックを調べた。
彼らが実験参加者たちにした質問はこうである。
「さて、皆さん。
英語では、一番目にkが使われている単語(例‥king)と、三番目にkが使われている単語(例‥awkward)では、どちらが多いと思いますか?」
この質問には、ほとんどの人が最初に「k」を使う単語だと答えたのである。
ところが実際には、英語においては三番目に「k」を使う単語の方が三倍も多いのである。
どうして、誰もが間違えるのだろうか。
その答えはこうである。
質問がなされた時、人々の頭の中では、1番目に「k」のつく単語がいくつも思い出される。
king、kitchen、kick、know……など、最初の単語ほど思い出すのが簡単なのだ。
しかし、三番目に「k」のつく単語はなかなか思いつかない。
そのため、一番目の方が多いと勘違いし、間違えるのである。
これが、ヒューリスティックである。
人間はある一定の思考の流れに縛られていることが多く、そのために意外性のあるアイデアを出すのが難しい
これが心理学の原則である。
「化粧」と聞くと、ほとんどの人は「女性のもの」と答える。
だが、こうしたヒューリスティックに縛られている限り、「男性化粧品」という未知の分野への発想は出てこない。
また、「食事」=「家もしくはレストランで食べるもの」というヒューリスティックに縛られていたら、コンビニ弁当は成功しなかったであろう。
まだ得心がいかない人に、次の実験例を出す。
これは、スロビックという心理学者が行った質問だが、まず自分なりに答えを推測してもらいたい。
問1:アメリカでは年間自殺者数と、年間他殺者数のどちらが多いと思いますか?
問2:年間で見た場合、アメリカでは火事で死ぬ人と川や池で溺死する人はどちらが多いと思いますか?
さて、間1に関して。
あなたが「アメリカは暴力社会だから他殺者のほうが多いに決まっている」と考えたなら、ごく一般的な解答をしたことになる。
ただし、それは事実ではない。
実際には、どの時点で統計をとっても、自殺者のほうが必ず六千人ほど多いからである。
次に、間2について。
あなたが「火事で死ぬ人が正解かな」と考えたなら、やはり一般的な推論をしたことになるが、事実は異なる。
実際の統計を見ると、焼死者と溺死者の数は同じくらいなのだ。
では、どうして人間はこう答えてしまうのか?
スロビックによると、それはマスコミ報道によるという。
マスコミは、自殺よりも他殺のほうを率先して報道する。
溺死する人よりも火事の報道を多くやる。
そしてニュースを見ている人々は、「他殺が身近である」「火事は多い」と知らぬ間に思い込まされてゆく。
そして一定の思考の流れをするようにヒューリスティックができあがる。
結果、ほとんどの人が同じような発想をするようになるのだ。
人間は誰もがヒューリスティックから逃れることはできない。
思考は自分の知らない深いところで機能しており、自分が知ることができるのは、ほんのうわずみだけなのだから。
では、どうすればヒューリスティックの魔の手から防衛できるのか?
それはできるだけ、伝統的、一般的、普遍的、常識的、な意見を捨てることである。
常識を捨てれば捨てるほど、別の何かを得ることができるのだ。
人は、因習や慣習にしがみつき、知らぬ間に常識の餌食となる。
それを捨てられるかどうかは、自分の努力しだいなのである。
カテゴリー:NLP、営業、経営の心理学講座
後発の企業が一位になる秘訣
なぜ、あの会社は儲かるのか?
値ごろ感のユニクロと高級路線の伊勢丹。稼ぎ上手はどっちだ?
誰もが知っているあの会社の戦略が、どうやってお金に結び付いているのかを読み解く。
経営戦略と会計学がドッキングした2倍おいしいビジネス解説書。
切り口を変えて、その分野で一位になろう
一位になるのは容易ではない。
「それができれば苦労はしない」のだ。
実際、ほとんどの企業が「後追い」であろう。
しかし「我が社はどうせ後発の企業だから」とあきらめるのはまだ早い。
ある領域で一位になれなければ、別のところで一位になればよいのである。
大西洋横断飛行を成功させた第一位はチャールズ・リンドバーグであること、第二位がバート・ヒンクラーである。
では、
「大西洋横断を三番目に成功させた人物は誰だろうか?」
この人物の名前はアメリア・アーハートである。
しかし、アメリアは「大西洋横断飛行、第三位」ではなく、大西洋横断飛行を成功させた「初の女性飛行士」として知られているのである。
これが、別の領域で一位になるということの秘訣だ。
無理矢理に別のカテゴリーを作り出し、ともかく一位になれば、人々は見る目を変えるのである。
「ああ、一位なのだ」と。
コンピュータといえば今やIBMが有名だが、同じコンピュータ産業であっても着実に成功している会社はたくさんある。
たとえば、クレイ・リサーチ(Cray Reseach)社。
ここは、初めて「スーパー」コンピュータを作ったことで第一位になった。
無論、現在クレイ社は大企業になっている。
もしクレイ社が単に「コンピュータ会社」というだけであれば、ここまでの成功は望めなかったであろう。
「スーパー」という言葉をつけ加え、這になったという事実が大切なのである。
コンペックス(Convex)社もそうだ。
ここも巧妙なやり方で、やはり第一位を獲得した。
つまり、初めて「ミニ・スーパー」コンピュータを作った会社なのである。
本体だけでなく、コンピュータの周辺機器にも似たような例がある。
ヒューレット・パッカード社は単なる「コンピュータのプリンタ」ということで売り出さず、「レーザー・プリンタ」という新しいカテゴリーで業績を伸ばすことに成功したのである。
自動車業界でも同じである。
クライスラー社は自動車市場で10%ほどのシェアを持つ大企業であるが、その中でも細かい内訳を見ると、実に市場の50%をも占める車がある。
それは「ミニバン」である。
クライスラー社は初の「ミニバン」を売り出したため、現在でもミニバンといえばお客の心の中にクライスラー社の名前が自然と浮かび上がってくるのである。
女性雑誌でも同じである。
リヤーズ(Lear's)社は、女性雑誌のなかでは後続組として出発したのだが、「大人の」女性雑誌というふれ込みで売り出すことで成功したのだ。
いかがだろうか。
こうした例を挙げていくと、別のカテゴリーを作って一位になることはそれほど難しくないことに気づくだろう。
「そんな簡単に一位になれれば苦労しないよ」とあきらめる前に、一位になれる領域を自分で創り出す気概を持つことが大切なのである。
ちなみに、別のカテゴリーで一位になるというのは日本企業のお家芸だ。
たとえば、VTRを作ったのはアメリカの企業であるが、日本のメーカーは「家庭用」VTRという新しいカテゴリーを作り、そこで大成功をおさめた。
ラジオもそうで、日本のメーカーは「小型の」ラジオということでやはり一位になった。
結論しておこう。
新技術などを用いて、新製品を作って一位になれば成功する。
ただし他の企業が始めたことでも、別のアイデアによってお客の心に「一位」であることを刻みつけることができる。
ともかく、お客の心の中では一位であることに変わりがないのだから。
心のインプリンティングは根強い。
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頼みごとはよく晴れた日にしなさい
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
あなたは自他ともに認める機械音痴だ。
ビデオの録画予約はできないし、新製品の機械などここ数年購入していない。
両面コピーをするのも誰かに尋ねなければわからない。
また一度やり方を聞いても、次の日にはすっかり……。
もちろんコンピュータのキーボードにふれることは怖くてできない。
そうなると、いきおい誰かに物事を頼むことが多くなってくる。
いくら上司でも、部下に頼みごとをするのはつらい。
口べたなため、依頼をするのもひと苦労である。
それに、「このままだと部下にバカにされてしまうのでは?」という心配もあり、なかなか頼むきっかけがつかめない。
このような場合に限らずとも、部下に依頼をする時にどことなく後ろめたさを感じる上司は多い。
当然ながら、上司に尋ねるのはためらいがあるという部下はもっと多い。
そこで、「依頼をする」のに適切なタイミングを見抜く心理学的な方法をお教えしよう。
この方法を知っておくだけで、簡単に頼みごとをすることができるのだ。
と言っても、相手の顔色をうかがうような高等なテクニックを使う必要はまったくない。
ただ窓の外に目をやり、晴れているかどうかを確認するだけである。
頼みごとはよく晴れた日にしなさい
実に、これが大切である。
どうも人間はぽかぽか陽気だと安請け合いする傾向があるからだ。
雨の日だと「否」と言う人も、太陽の見える日には、心の殻がゆるんでしまうらしい。
こうした当たり前のようでいて、それでいてびっくりするような結果を明らかにする心理学の実験は意外に多いのだ。
カニンガムというアメリカの心理学者がいる。
彼は、道端の歩行者を五百人以上もつかまえて、「アンケートに答えてくれないか」と頼んでみた。
その際、彼は晴れた目と雨の日、夏と冬、という条件のもとで同じ頼みごとをしたのである。
もちろん、アンケートを頼む場所はどちらも同じところである。
すると、天気のよい日だと、面倒なアンケートにも答えてくれる人が多いというデータが得られたのである。
これは夏でも冬でもそうであった。
重要なのは「晴れた日」だったのだ。
もちろん、カニンガムは別の解釈も考えてみた。
天気のよい日というのは温度が高い。
雨の目は寒くて温度が低い。
とするなら、影響しているのは「太陽」それ自体でなく、「温度」なのではないか。
つまり、寒い時には心まで冷たくなるのではないか、と。
さらに、カニンガムは調子にのったのか、湿度、月の満ち欠け、風向き、大気汚染指数、二酸化炭素濃度など、考え得るかぎりの要因の影響をも調べたが、やはり「晴れ」という要因がもっとも重要だったのだ。
ちなみに、カニンガムは「天気が重要」という結果をさらに確認するために、レストランの店長に頼んで次の実験を行っている。
レストランの中は温度がたえず一定に保たれているから、外が晴れていようが雨であろうが温度差はない。
もちろん、湿度なども一定に保たれている。
ところが、こうした状況で同じ実験をしても、やはりレストランの外が晴れていると、雨の日よりも、お客が多くチップを払うことがわかったのである。
これにより、カニンガムは、「晴れた天気こそ、人間の心をゆるませる」という結果にいっそうの確信を持つことができたのである。
こうした結果は、アーメッドという心理学者によっても得られている。
アーメッドも、晴れた日は頼みごとをするのに絶好であるという結果を得た。
さらに、「頼みごとをするなら太陽が大切」という結果は、スコルニックという心理学者の実験でも明らかにされた。
スコルニックは「昼間」の太陽が出ている時間に頼みごとをするか、「夜間」の太陽が見えない時間に頼みごとをするかを比較したところ、「昼間」のほうが受けいれられやすいことを突き止めたのだ。
あなたが無理な注文を頼みに下請会社に出かける用事があるとしよう。
そんなときは、迷わず晴れた日に出かけることが重要だ。
また、あなたがセールスマンであるなら、晴れた日こそ、普段以上に発奮して接客すべきなのだ。
初めて訪問する会社には、天気予報を見て、晴れの予報がついている日にアポイントメントをとるのもよいかもしれない。
たかが天気がよいからといって……とバカにしてはならない。
これは占いではなく、科学的な実験の結果から言えることなのである。
人間は、見えないところで大いに天候に影響されている。
それが明らかにされている以上、この原理を活用しない手はないのである。
「晴れた日」の落とし穴
上記で、頼みごとをしたいなら「晴れた日」に行うべきだという心理学の原則について述べた。
しかしながら、晴れているからといって注意を怠ってはならない。
というのも、晴れていても「暑い」日だと、それによって人間の心理は影響を受けるからである。
カールスミスとアンダーソンという二人の心理学者がいる。
彼らが何げなく過去の暴動のデータを調べていると、暴動は暑い日に多発することがわかったのだ。
「何だか今日は暑いなぁ」というだけで人々は攻撃的になり、イライラし、人に食ってかかりたくなるのである。
ということは、当然、
相手のいらだちを誘うような交渉・要請を行う時には、暑さを避けなさい
と言えるのではないだろうか。
ただ暑いというだけで、あなたの依頼は拒絶されることもあるからだ。
交渉というのは、ほとんどの場合、その成否があやふやなことが多いのだが、特に、交渉が熱っぽくなりそうな予感がある時には「暑さ」には気をつけなければならないのである。
そんなことはビジネスマンなら誰でも知っている、と突っぱねないで欲しい。
知っていることと、行うことは別問題だからだ。
暑さが人間に影響することは知っているのに、誰もその間題の解決策を採ろうとしたことがない人が多い。
もしあなたが、交渉相手と熱っぽい価格交渉をすることが予想されるとしたら、どのような戦略をとるだろうか。
しかも、交渉の当日が、夏の猛暑のさなか、記録破りの日だったとしたらどうするだろうか。
私の作戦はこうである。
会社の一室を使用して話し合いをするのであれば、事前に受付の人などに、「○○室のクーラーの設定温度を2度ほど下げてもらえませんか」と頼む。
つまり、文字どおり「頭を冷やしてもらう」雰囲気づくりをするのだ。
喫茶店などで待ち合わせをしたとしても、やはりお店の店員に頼み、温度を下げてもらうように依頼するであろう。
というのも、こうした小さな戦略があとでじわじわと効いてくることを知っているからである。
さらに、ここが重要なのだが、交渉相手が現れたときに、じっと相手の額を観察する。
そして少しでも額に汗が浮いているのを見つけたら、本題である交渉は決して始めない。
たわいない世間話をして、しばらく待つ。
勝負が始まるのは、相手の汗がひいて呼吸が正常に整っていることを確認したあとなのだ。
こうした下ごしらえをせず、いきなり交渉に入るのは下の下の策だ。
「暑さ」という、交渉とはおよそ関係のないところで相手をキリキリさせ、いらぬ敵意を生み出す可能性があるからだ。
失敗の可能性があるなら、その要因をできるだけ排除しておく。
この心づかいこそ、決定的な差を生み出すのだ。
ちなみに、暑いと人々の攻撃性が高まるという心理法則は、プロ野球でも実証されている。
レイフマンという心理学者たちが興味深いデータを示しているので、それをご覧に入れよう。
レイフマンたちはメジャー・リーグの公式記録を調べ、面白い傾向が見られることに気づいた。
気温が華氏90度(摂氏32度)を境として、それ以上になると打者がデッド・ボールを受ける確率がきわめて高くなっていたのである。
ピッチャーというポジションは常に冷静であることが求められているはずだ。
それにもかかわらず、ただ気温が高いというだけでピッチャーの多くが打者にボールをぶつけていたのである。
メジャーのピッチャーは、当然ながら一流のピッチャーがそろっている。
しかも、ピッチャーはピンチになっても冷静でいられるようなメンタル・トレーニングをかなりしているはずである。
そんな彼らでさえ、気温には影響を受けるのだ。
そのことを考え合わせると、ほとんどメンタル・トレーニングをしたこともない、ごくごく普通の人間を相手にするのだから、なおさら温度の問題には気を配ったほうがよいと思うのだが、いかがだろうか。
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接待の科学的効果
いかにも日本的なビジネス慣行といえば、やはり「接待」ではないだろうか。
ビジネスという場面からわざわざ遠ざかるようなところでの話し合い。
海外のビジネスマンにとってみると、これほど理解しがたい慣行はないそうである。
なぜわざわざ酒の席で取り引きをしなければならないのか。
アメリカにも、「ビジネス・ランチ」といって、昼食しながら話し合いをすることはあるが、「ビジネス・ディナー」は普通やらない。
なぜ、真面目な交渉をしなければいけないのに「今日のところはひとつ、お堅い話は抜きで……」などと言われて酒を飲まなければならないのか。
しかも、自分の自由時間を使って、である。
実は、この裏には隠された効果がある。
接待の極意は、「良い気分」にさせることである。
そしてこの「良い気分」というのがくせものなのだ。
証拠のひとつをお見せしよう。
フォーガスという心理学者がいる。
彼は、交渉を始める前に「良い気分」にさせた場合と、「いやな気分」にさせた場合とで、どのような違いが出るのかに興味を持った。
そして、大方の予想どおりの結果を得た。
つまり、
「良い気分」になった人は、非常に協力的になった
のである。
こちら側は同じことを同じように言ったにもかかわらず、相手の気分しだいで、説得効果が変わってしまったわけだ。
説得に関する研究では、食事をとりながら説得するテクニックを「ランチョン・テクニック(昼食法)」という。
アメリカでは日本と違ってビジネスでの食事といえば昼食のことだから、こんな名前がつけられているのだが、いわば、「食事法」である。
そして、食事法などともったいぶってみたところで、結局、昔からある「接待」と変わりはない。
つまり、食事をしながらだと、人は相手の意見を受けいれる率が高まるのである。
以上は特に目新しいことではないかもしれない。
「接待=良い気分=説得効果が高まる」のがわかっているからこそ、接待を行っているのだから。
では、次のことはどうだろうか。
アイセンという心理学者が行った実験から、
「良い気分」になった人は、リスキーな選択をしない
ことが明らかになったのである。
良い気分になった人は、そのままの気分を維持したいため、わざわざ無茶なことをせず、安全を好むようになるのである。
この知識を用いれば、たとえば「相手の気が変わりそうな気配があるとき」や「突然大胆な意見を言ったり、とっぴな行動をとるような人を相手にしているとき」、接待によってこのままの調子を押し通そうという工夫ができるだろう。
接待はいいことずくめである。
心理学の実験結果によれば、当然そうなる。
しかしながら、若い人の中には価値観が少しずつ違ってきているということも重要である。
若い人の中には、自由を好む人が多い。
仕事が終わったのに、どうして自分の自由な時間をつぶしてまで、同僚や上司とつき合わなければならないのだ、という意見の人も多いのである。
こういう人があと十年もたって上司になったとき、取引先から接待を受ける立場になったら、どうするのだろう。
恐らく彼は自分の時間がつぶされることに腹を立て、接待を受けること自体に嫌悪感を覚えるであろう。
とすれば、誘ったほうはやぶへびである。
こうした問題はどうやって避けたらよいのだろうか。
その答えは必ずしも「良い気分=会社が終わった後に高級な店につれていって酒や食事を振る舞うこと」ではないことにカギがある。
食事をさせて良い気分にすることができるのだから、わざわざ大がかりな接待につれ出さなくてもよいのだ。
勤務時間内にちょっと豪華な「朝食会」や「昼食会」に招くといった簡単な方法もあるが、たとえば、会議室などでの交渉では、なるべく手を出しやすい「おやつ」を用意するだけでも効果がある。
交渉をする時、お茶やコーヒー、場合によっては、ほんの少しの茶菓子くらいは用意されているだろう。
しかし、お茶やコーヒーに手をつけても、茶菓子には手をつけないビジネスマンは多い。
そこで、わざと戦略を変えて、どうにかして手をつけさせる方法をとるのである。
「これは、娘が修学旅行で買ってきたもので、どうぞおひとつ」
「これは珍しい食べ物ですから、ぜひ」
「この食べ物は健康に良いそうですので、ひとつお試しください」
などと言って、お茶だけでなく手を伸ばさせる。
もちろん、あなたもそれを食べて、相手が受けやすくすることも必要である。
そうすれば断る人はいないはずだ。
食事法は効果的である。
もちろん接待もそうである。
ただし、わざわざ大がかりな接待をしなくても十分に効果は狙える。
要は作戦しだいで、些細なことでも接待と似たような効果があげられるということである。
無意味に豪華な接待をするのも、逆に「経費節減」だからといって、接待をまったくやめてしまうのも正しくない。
食べ物を口に入れている時の人間の思考は、通常よりもかなりおおらかになっている。
その法則を使わない手はない。
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非合理エスカレーション、「共倒れ」の心理分析
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
人間は、毎日どれほどの「思い込み」に振り回されているだろうか?
それから自由になれば、あなたはすばらしい武器を得ることになるだろう。
あなたが小売店のオーナーであるとしよう。
ある日、あなたの店のすぐそばに似たような小売店ができた。
競合店に客足が流れてゆくのを見たあなたは、もっとも基本的な戦術である「値引き」を始めた。
するとしばらくして、再びお客が集まり始めた。
ところが、それを見た相手は同じ戦術をとり、しかもあなたの店よりずっと値引き率を上げたのである。
そこであなたは「負けてなるものか」とさらに値引きをし、それを見た相手はその上をいく値引きを……、という悪循環が始まった。
今では、あなたのお店も相手のお店も「売れば売るほど赤字になる」という状態になってしまった。
このままでは共倒れだ。
よくありがちなこうした問題をどうやれば防げるのかを考えてみたい。
実は、こうした例はよくあるものだ。
たとえば、アメリカの航空各社で起きた共倒れの危険について述べてみよう。
1981年、アメリカン航空は革新的な戦略をとった。
この戦略ではビジネス客が自分の搭乗した便の飛行距離を登録し、そのマイル数に応じて旅行賞品に引き換えられるというのだ。
こうした「おまけ」を使った販売促進策は、今ではごく当たり前になったが、当時は非常に優れたマーケティング戦略であるように思われた。
しかし、アメリカン航空がこの戦略で成功を勝ち取ると、「われもわれも」と、業界のどの航空会社も似たようなプログラムをやり始めたのである。
この競争が始まると、各社とも「うちでは飛行距離の2倍サービスをします」とか、「提携ホテルの宿泊代金を安くします」といったサービスが当たり前になってしまい、どの会社も引くに引けない状況に陥ったのである。
こうして航空各社は混乱に陥って収拾不可能になったのだ。
競合会社に勝ちたいと互いに思うことが悲劇的な結果を生み出す現象を、ベイザーマンとニールという心理学者は、「非合理エスカレーション」と呼んだ。
先の航空会社の例は、まさに非合理エスカレーションの典型だったのである。
普通に考えれば、損をしてまでお客を獲得する必要はない。
そんなことならやめてしまったほうがよい。
しかしながら、
他社に勝ちたいという欲求があると、人間は自分の感覚と判断を誤ってとんでもない選択をし、それに固執し続けてしまう
という危険性が我々の心の中には存在するのである。
それでは、どうすれば非合理エスカレーションを防げるか。
ビジネスは戦争であるから、相手に切りかかることは必要なことである。
しかし、返す刀で自分の体をも切りつけてしまっては、本末転倒なのだ。
こんな時こそ、協調介入というかお互いに折れることが必要なのである。
つまり、「もうバカげた勝負はやめよう」という話し合いをして、共存共栄をめざすのである。
このように、どちらかが折れなければ、いつまでも非合理エスカレーションの動きを止めることはできない。
相手を倒すことに夢中になっているうちに、自分も立ち上がれないほどのダメージを受けるのがオチだ。
「そんなこと、言葉では簡単だが、実際には……」との声が聞こえてきそうだが、なんの努力もせずに「当たり前のことだから」とあきらめてしまっては、お決まりの破滅的パターンに陥るだけである。
では、協調介入がうまく成功した例を挙げてみよう。
これは、1986年の米国自動車業界に起きた競合合戦の話だ。
当時、ビッグ・スリーと呼ばれる大手自動車企業では、マーケット・シェアの拡大を狙って盛んにリベート合戦を始めた。
どこかが払い戻し金額を上げると、「負けるか」とばかりに他社がその金額を超えるのである。
もちろん、こうして三社ともほとんど利益を挙げることができなくなり、何のために商売をしているのかさえわからなくなった。
この競合合戦が収束したのは、クライスラーの会長であったリー・アイアコッカが、「クライスラーは他社が協調すればうちも停戦しよう」と述べたからである。
もとより、三社ともこのようなバカげたリベート合戦をやめたがっていたからフォードもGMもすぐに勝負から降りたのである。
この勝負は一応のところ丸くおさまったが、いつもいつも成功するわけではない。
ビジネスは理性的な土俵でばかり勝負が行われるわけではないからだ。
人間は感情的な動物である。
「自分は死んでも相打ちで」などと思い込む場合もあるだろう。
そんな場合を丸くおさめるためには、どちらかが協調を持ちかける必要があるのだ。
相手も勝負をやめたいのだ。
だからこそ、こうした事態になる前に、競合会社の人たちともある程度の意思疎通はしておくべきである。
そうすれば、協調を持ちかけやすいであろう。
かつて、中国の春秋戦国時代には、相手国と戦争が生じても、大臣レベルでは敵国との間につながりを残しておいたそうだ。
というのも、いざという時に停戦を持ちかけられるように、大臣たちは敵側の人間とも親しくつき合う必要があったからである。
互いの国をつぶさないためにとった古代中国人の知恵は、現在でも立派に通用するビジネス法則だと言えるだろう。
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相手の意見や行動を変えるコツ
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
説教ではなく相手にイメージさせる
相手の意見や行動を変えようと試みる場合、どうしても押しつけがましい説教をしてしまうのが人間である。
自説を強調し、相手の非をあげつらい、こちらの意見を強制してしまうのが人間である。
そして、その方法が無駄とはわかっていても、やめられないのが人間なのである。
セールスマンは、自分の売る商品やサービスがどれほど素晴らしいものであるかを話す。
唇の横に唾をためながら熱っぽく語る。
しかし、こういう説得はたいていうまくいかない。
それでも続けてしまう。
一番のセールス・テクニックは何か? このような質問には、
「顧客が自分から買うように仕向けることです」
と答えるようにしている。
顧客が自分から欲しがる。
こちらから売りに出かけなくとも、相手から注文の電話が届く。
そういう事態に持ち込めるのが最高なのだ。
では、そのテクニックとは何か?
「幸せな場面を想像させればいいのです」
と答えるようにしている。
詳しい話をせず、ただ良い結果だけを想像させる。
それだけで、顧客は自分から買い求めるようになってしまう。
もちろん、100%とはいかないが、ともかく自分からは押しつけのセールスをしないので、何度も何度もその顧客を訪れることのできる可能性は残っている。
というのも、押しつけのセールスをすると気まずい関係になることが多く、結局はその顧客を逃がすことになる。
しかし、良い場面だけを想像させるという、押しつけをしないテクニックを使えば、将来的な接触の可能性を十分に残せるのである。
相手に好ましい想像させるのが効果的だということは、次のような実験結果からもわかる。
アメリカのある地方で、ケーブルテレビ局の設立が決まった。
このテレビ局は住民をどうすれば加入させられるかというアイデアについて、効果があるかどうか実験的に確かめてほしいと、グレゴリーという心理学者にお伺いを立てたのである。
彼を筆頭とする心理学者グループは喜んでさっそく次の実験を行った。
ある地域住民には、「ケーブルテレビについて」と書かれたパンフレットを配り、徹底的に情報を供給する作戦をとった。
ところが、いくら情報を与ぇても、「住民はケーブルテレビについての知識は得たが、加入契約はいまひとつ」という結果しか残せなかったのである。
そこでグレゴリーたちは、次に、別の地域住民に対して別の作戦を使った。
「好きなテレビ番組だけを、自宅でくつろぎながら見ているあなたを想像してくれませんか」
と頼む作戦に出たのである。
これが大正解だった。
こうした素晴らしい光景をイメージするように仕向けたところ、もっとケーブルテレビについて知りたい、と追加情報を希望する人が増え、契約がたくさん取れたのである。
顧客自身に考えさせること。しかも良いことだけを考えるように仕向けること。そうすれば、顧客の方からこちらに歩み寄ってくることが可能になる
グレゴリーたちの結果が示したのは、このような心理法則なのである。
たとえば、化粧品を売りたいのなら、
「すれ違う人たちに意識されるようになりますよ」
「妻でなく女性を感じさせることができますよ」
といったドラマチックな場面を想像させるのもよいだろう。
教育セット販売でも同じだ。
「大学のキャンパスをきれいな女性と並んで歩くのもいいですよね」
などの、教育セットとは関係のない場面を話の中に巧みに挿入し、好ましい場面だけを想像させてしまうのだ。
また、想像法は、顧客獲得以外にもさまざまに利用できる。
たとえば、オフィス内をきれいにさせるための従業員の意識改革法について述べよう。
レノという心理学者がいる。
彼は、ゴミの投げ捨てが地域問題化しつつあるなかで、なんとかしてこの間題を解決しようとした。
そのため、レノは同僚たちと一緒に実験を行ったのである。
まず最初にレノたちは、「ポイ捨て禁止!」などの立て看板を使った作戦を考えた。
しかし、このやり方は素人目からしても、まったく効果がなさそうだ。
そこでレノたちは想像法を使ったのである。
市民たちへの訴えはこうであった。
「ごみ処理の人たちがしている仕事について想像してください。
ちょうど、あなた自身が清掃員になった気分で。
ただでさえ大変なのに、ごみ箱以外のゴミも拾うんですよ。
それも想像して下さいね。
いやですよね。
ごみ捨て場でもないところのゴミを拾うのは。
ちゃんと決められたところに捨ててもらいたいなぁ。
そういうところも想像してください」。
こう頼んだところ、市民たちはピタリとゴミを散らかさなくなったのである。
オフィスをきれいにするのに、汚くした人に罰を与えたり、若手社員にやらせる必要はない。
「きれいに使おう!」というポスターでなく、「掃除する人のことを考えて!」というポスターを作ればいいのだ。
そうすれば、ゴミはごみ箱に、という当たり前のことができるようになるに違いない。
これも想像法の応用である。
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「煮つまった会議」で、アイデアを次々と出させるテクニック
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
まったく意見が出ない。
そんな会議に参加した経験は誰しもあるだろう。
「何でもいいからどんどん意見を出せ」。
無責任な議長からハッパがかけられても、まったく頭に何も浮かばないのだから、どうしようもない。
参加者はみな下を向いてしまい、気づまりな沈黙やため息とともに時間だけが過ぎてゆく……。
これでは、会議なのか、我慢比べなのかわからない。
会議の進め方に何か問題があったのでは? と悩むビジネスマンのために、アイデアを次々と出させるテクニックについてご紹介しよう。
やり方はこうだ。
会議の参加者すべてに向けて「アイデアを出してごらん」と優しい言葉をかけるのではなく、
「今から五分間をとります。その間に、個々が自分自身でアイデアを出してください」
と言うのである。
そうすれば、一人一人が別々に意見を出さねばならない状況に追い込まれる。
なおこの時に、
「どんなにバカげたように思えるアイデアでも必ず書きとめておくように」
と言っておくのも大切だ。
そうしないと、せっかく浮かんだアイデアを、発表しないという人も出てくるからだ。
バカげているかどうかは、皆で判断することであって、個人が判断することではない。
あるいは、個々人に分けるのではなく、二人一組にしてもよい。
つまり、会議を全体で動かそうとはせず、隣り合う人たちだけで五分間話し合ってもらうのだ。
その後で、二人で出し合った意見を集めるのである。
こうすれば全体でアイデアを出させるより、ずっと多くの意見を集めることができるであろう。
集団を全体として動かすのは難しい。
こんな時は「分割法」を使うとよい。
つまり、会議を小集団に分割して意見を出させてから、それを一つに集めなおすのである。
その有効性は次の法則に支えられている。
個人のほうが集団よりもアイデアが出やすい
これは実験結果からも証明されている。
アメリカの心理学者タイラーをはじめとするグループは、この原則を次のような実験で確認した。
タイラーたちはあらかじめ正解のない五つの議題を会議用にこしらえた。
たとえば、
「多くのアメリカ人がヨーロッパ旅行をするのに、ヨーロッパ人はあまりアメリカ旅行をしません。どうすれば、ヨーロッパ人の旅行者を増やせると思いますか?」
などの議題である。
こうした正解のない議題では、可能性としてはいくらでもアイデアが出せるはずである。
だから正解が見つかって会議がストップするということはなく、実験に最適な議題なのである。
なお、タイラーたちは会議時間を十二分に設定して実験してみた。
この時、タイラーたちは単なる会議を行わせるのではなく、一人で考えさせるのか、五人で話し合いながら考えるのか、を実験的に分けてみた。
すると、一人で考えさせると、五人の人よりも約二倍も多くのアイデアを出すようになったのである。
タイラーたちは結果をこう分析する。
集団の会議では、一人がしゃべっている間は、他の人は話すことができない。
そのため、時間のロスが大きい。
さらに、他の人の意見を聞かされた人たちは、その意見に縛られるようになり、自由な発想ができなくなる。
さらに、せっかくアイデアが思い浮かんだのに、他の人につまらないと思われるのを避けるためにそのアイデアを発表しない内気な人もいる。
そのため、一人でアイデアを出させるほうがよいのだ、と。
ちなみに、一人のほうが大勢の人よりもずっと多くの意見を出す、という結果は、ムーレン、ジョンソン、サラス、という三人の心理学者が行った実験でも確認されているので、ほぼ間違いないところと言ってよい。
しかし、一人で考え出すアイデアには困った点もある。
それは、
個人で出したアイデアは、量は多くなるが質が悪くなる
ということである。
つまり、自由な発想が許される結果、どうでもいいような意見も多くなってしまうのだ。
あなたが会議の運営をまかされた時は、「個人か集団か」の使い分けをするとよい。
アイデアの出方しだいで「分割法」をうまく用いれば、あの重々しい空気からあなたも参加者たちも救われるのである。
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期待をかけることによる絶大な効果
トヨタの上司
トヨタは、社長や経営幹部など一握りのリーダーが、トップダウンで経営している会社ではない。
現場のリーダーを積極的に育成し、彼らが自律的に動ける環境をつくり、その能力を存分に発揮させている会社である。
トヨタでは、現場のリーダーをどのように育てているのか。
勤続40年以上の元現場責任者が証言する。
あなたは入社五年目。
ようやく毎日の仕事のコツがわかりかけてきた。
そんなあなたは新入社員に仕事の内容を教え、研修のようなものをやってほしいと頼まれた。
人を指導した経験はほとんどないものの、新入社員を立派などジネスマンに育てあげたいという気概はある。
だが、具体的な指導法を知っているわけではない。
そんな場合には、どうすればよいか。
こうした悩みがあるのなら、徹底的にほめる戦略をとろう。
ほめるだけでなく、実際に大きな期待をかけてやろう。
新入社員が押しっぶされると感じるほどの期待をかけてやろう。
そうすれば、必ずその期待に応えてくれるはずだからである。
人の能力は無限大なのだ。
「これくらいかな」と制限を設けてはいけない。
「君はもっとできるはず」という期待は、いくらかけても十分すぎることはないのだ。
心理学には「自己成就的予言」という専門用語がある。
これは、
「こうあってほしい」という期待をかけることが、まさに予言としての効果を発揮し、将来的にその予言が叶ってしまう
という現象を指す用語である。
だから、「だめだ、だめだ」と言っていると、本当に駄目になってしまうのだし、「いいね、いいね」と言っていると、本当に素晴らしく変貌してゆくのだ。
自己成就的予言については、エデンという心理学者が行った興味深い実験があることをお知らせしよう。
エデンは、イスラエルの軍隊で千人以上の兵士に対して、自己成就的予言が成功することを確認したのである。
エデンは、各部隊の部隊長を呼び出し、ある訓練生については、「やつは素晴らしい可能性を秘めている人物だ」と前もって告げておき、ある訓練生については「平均的な才能は持っている」と告げておいたのである。
実際は、訓練生の能力にはほとんど差がなく、「可能性がある・ない」、というのは実験者が勝手に割り振った嘘であった。
こうして部隊長の訓練生への期待を実験的に操作したわけである。
さて、十週間の訓練を受けた後で兵士としての能力を検査したところ、大きな期待をかけられていた訓練生たちは、素晴らしい兵士へと変貌していた。
彼らは筆記試験を受けても優秀な成績をおさめ、兵器を用いた実地のテストでも優れた能力を見せるようになったのだ。
人間は期待をかけられると、それに応えなければならないという無言のプレッシャーを感じる。そして、ほとんどの場合、そのプレッシャーは良い方向に働くのである
人間の潜在能力というのはわからない。
自分自身の実力すらよくわからないのに、他人の実力はなおさらわからない。
いくら人事課で経験を積んでみても、人を見る目というものはなかなか養えない。
新規採用の面接を行っても、半分は使える人材が手に入り、半分は使えない人材を雇ってしまう、というよく見られる悩みはしかたのないことなのだ。
大切なのは、面接の段階で「実力のある人材を雇う」ことではない。
採用した人たちに、信じられないくらいの期待をかけてやる、ということが重要なのである。
いくら使える人材でも、期待がなければ実力は発揮できない。
期待が薄ければ、人はそれに見あった力しか出さないものだ。
たとえば、「50メートルしか走らなくていいよ」と言われたら、誰だって50メートルしか走らないはずである。
「50メートルでいい」と言われているのに、誰が何十キロも走り続けたいと思い、実行するだろうか。
初めの期待が小さければ、やることだって小さくなるのは当然なのである。
いくらでも走りたいと思うのは、走る才能をはめられ、絶賛され、持ちあげられた時だけなのだ。
一般に人を使うのがうまいと言われる人は、例外なく、人をほめる人のことである。
そしてはめるだけでなく、実際に心から期待をかけてあげられる人である。
口ではほめているのに、心の中で「お前にできるわけがないだろう」と思っている腹黒い人に対しては、人間は隠された本音のほうに敏感に反応する。
そして、結局、期待通りに「できない人間」になってゆくのである。
そこが、プレッシャーをかけすぎて相手をつぶしてしまうか、それともポジティブな方向に相手を引き上げることができるかの境目なのである。
前者のような人は、一見ほめ言葉を口にしているようでいて、その実ただの脅しになっていることが多いのだ(たとえば、子どもに対する「お前だったらこの高校に必ず受かるよ」というメッセージが、実は「この高校に受からなかったら、お父さんやお母さんはお前を見捨てるぞ」という無言のメッセージになっているような場合)。
蛇足ながら、一言だけつけ加えておこう。
期待をかけることと、口でほめることは別である。
期待を心の中でかけていれば、言葉は必ずしも必要ではない。
ローゼンタールという心理学者によると、昆虫や赤ん坊などの「言語によるコミュニケーションができない」対象についても、自己成就的予言がみられることがわかっているからだ。
要は、どれだけ心の中で期待をかけられるかであり、心を震わすようなセリフを暗記することではないのである。
心の中の「期待」は、意識せずとも、必ずあなたの言動や行動の中に自然と出てくるものだからである。
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相手の思考を妨げることで、説得しやすくなる
仕事ができる人の黄金のスピーチの技術
スピーチがうまいと仕事ができる、出世も早い!あがることなく、聞く人の心をつかむスピーチは誰でもできます。
プレゼン講師として多くの企業で大人気の著者が、わかりやすく解説。
「雑音」がもたらす説得の効果
ある電機メーカーに勤めるH君は、来週の企画会議までに、最低でも五つのアイデアを出すように上司から命じられた。
ところが、どんなにアイデアを書き出してみても、どうもパッとしない。
ついに企画会議を明日に迎えても、いっこうに良いアイデアが浮かばない。
さて、困った……。
一応、五つのアイデアを絞り込んで企画を立ててみたが、こんな企画では皆を説得することはできないだろう。
立案した企画には何の根拠もないものばかりで、すぐに反論されるに決まっていると彼自身も思っていたからだ。
ところが、実際の会議が始まってみると、すんなりと企画が採用された。
はては企画部長までが、「これ面白いよ」と言い出す始末。
これには当のH君もびっくりだった。
どうしてこんな事態になったのかがわからない。
しかし、物事には必ず原因と結果がある。
ここにも、ある幸運な出来事が作用しているために、彼の立案した企画が通ったのである。
H君には残念だが、決して、企画そのものがよかったわけではなかったのだ。
会議の様子を事細かに聞いた私の推測はこうだ。
会議当日、H君の会社のすぐ隣で道路工事が行われていた。
しかもその雑音は人の声を聞きにくくするのに十分な大きさの音だったのである。
これが早田君の企画が通った最大の理由である。
話の内容に証拠がなく、弱い証拠しか出せない場合には相手の思考を妨げること。すると、相手は話の詳細について考えられないので説得されやすくなる
「精査見込みモデル」(Elaboration Likelihood Mode)という心理学のモデルがある。
人が決定を下すとき、どういった情報が特に精査(よく考えること)されるかを図式化したものだ。
そして、そのモデルからは、説得という観点からすれば、「証拠が弱い、などの場合には精査をさせてはならない」という公式が導かれる。
ちなみに、精査を邪魔することを「ディストラクション(distraction)」と呼んでいる。
ディストラクションを受けた、すなわち、思考を妨げられた人は、細かい内容には目がいかず、大まかな判断しかできなくなるのだ。
だからこそ、信頼性の低いプレゼンテーションなどを行う場合には、ディストラクションすれば説得効果が高まるというわけである。
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人間は一位のものにしか興味がない
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
「初めて飛行機で大西洋横断を成功させた人物は誰だろうか?」答えは、チャールズ・リンドバーグ。
この名前を知っている人は多いだろう。
では、「大西洋横断を二番目に成功させた人物は誰だろうか?」今度はほとんどの人が答えられないのではないだろうか。
二位というのは、なかなか人間の記憶に残らないということを示す好例だ。
そう、
人間は一位のものにしか興味がない。人々にとって二位以下はすべて一緒だ
だからこそ、リンドバーグの名前は知っていても、二番目に成功させたバート・ヒンクラlについては誰も知らないのである。
ちなみに、バート・ヒンクラーはリンドバーグよりもずっと優秀な飛行士であった。
彼はリンドバーグより少ない燃料で、しかもより時間をかけずに大西洋横断に成功したのである。
ところが、彼の名声はリンドバーグに遠く及ばない。
というのも、彼はしょせん二位でしかないからである。
この原理はビジネスにも当てはまる。
どんなに品質の良い製品を作ろうが、出だしが遅れれば消費者の記憶には残らないのである。
それにもかかわらず、ほとんどの企業ではヒンクラーのやり方を踏襲している。
つまり、ある市場が出来上がるのを待ち、それから品質の面で他の競合会社に勝てばいいと思っているのである。
現在の大企業を見てみると、一位で始めた会社は必ず成功している。
レンタカーのバーツ(HertZ)社しかり、コンピュータのIBM社しかり、清涼飲料水のコカ・コーラしかりだ。
新しい分野を開拓した企業は、シェアのほとんどをかっさらってゆくことができるのである。
人々の頭の中では、「一位である」ということは、「優秀」であって、「品質が良い」ことと同じ意味になっている。
だからわざわざ品質に注目しなくとも、一位であるという事実だけで十分なのである。
孫子の言う「先手必勝」は、まさにここにも当てはまる。
とはいえ、単純に新しい市場で一位になればいいかというと、そうとばかりは限らない。
なかにはアイデアが悪すぎて、まったく成功しなかった企業もある。
たとえば、フロスティ・ポーズ(FrOSty Paws)社。
ここは、どの企業も始めない領域でとりあえず一位になった。
しかし一位になったとはいえ、フロスティ・ポーズ社が初めて売り出したのは、「犬用アイスクリーム」だったのである。
このアイデアはさすがにどうか。
飼い主にしてみれば、わざわざ犬にまでアイスクリームを食べさせる必要はない。
ドッグフードで十分すぎるくらいなのだ。
フロスティ・ポーズ社の犬用アイスクリームはまったく見向きもされず、すぐに消えてしまった。
一位になることの重要性について、次のような科学的根拠を示すこともできる。
人間は、
初めて見るものや初めて聞くものに強烈な印象を受け、それを他のどんなものよりもよく記憶するというメカニズムを持っている
のである。
「インプリンティング(刷り込み)」と呼ばれる現象だ。
だからこそ、どんな製品であれ、一位になることはお客の心に強烈な印象を焼きつけることができるのである。
人類初の月面歩行をしたのはアームストロング船長で、「この一歩は小さいが、人類にとっては大きな飛躍だ」という言葉まで有名になってしまった。
しかし、二番目に月面歩行をしたバズ・アルドリンについて知る人は少ない。
二位というのは、三位とも四位とも同じなのである。
金メダルをとれなかったオリンピック選手は一時的に騒がれても、人々の記憶には残らない。
一位になれない企業も、人々の心の中で記憶されることはない。
たとえ品質の良い製品を出そうとも、そうしたハンディ・キャップは常につきまとうのである。
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眠気覚ましだけじゃない!コーヒーの隠れた効用
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
先に、贈り物の効果について心理学的考察を行ったが、最近では贈り物それ自体が敬遠される傾向にある。
そのため、贈り物によって相手を揺さぶる戦略が使えない状況が増えてきたのである。
大きい病院では「医師、看護人への贈り物はいっさいお断りさせていただきます」との表示が目立つようになってきたし、官公庁においても賄賂ととられかねない贈り物に厳しい監視の目を光らせるようになってきた。
もちろん、一般企業においても、お中元、お歳暮を除くと「御機嫌伺い」のたぐいは、公然とは受け取らないビジネスマンが増えてきたようだ。
そのため、取り引き交渉担当者などは、贈り物以外で勝負する場面がより多くなってきているだろう。
「ビジネス・トーク」で勝負できない交渉者にはつらい時代なのかもしれない。
しかしあきらめてはならない。
実は、贈り物をしなくとも相手を良い気分にさせる戦略がある。
そのビジネス戦略のキーワードはずばり「匂い」なのだ。
ちょっと考えてみればわかる通り、匂いほど人間の本能に直接的に訴えるものはない。
なぜ女性は香水をつけるのか。
それは、自分と異性の気分を落ち着かせたり高ぶらせたりする目的のためである。
なぜ料理に匂いがあるのか。
それは料理を美味しく見せ、実際に美味しく感じさせるためである。
ある実験では、鼻を洗濯挟みでつまみながら食事させると、どんなに美味しい料理でもまずく感じさせることが可能だということであった。
なお、目隠しをされた状態で食事をさせても、料理の味は変わらなかった。
風邪をひいて鼻がつまっていると、料理がやけにまずく感じられるのも、そのためである。
もちろんこの効果は、ビジネスに役立てることもできる。
ショッピング・モールで次のような実験が行われている。
バロンは、実験的に、お店を使ってコーヒー豆を妙るいい匂いを周囲にただよわせた。
そして、その匂いがする近くで、道行く買い物客に対し「電話をかけたいのだが、1ドル頂けないだろうか」との依頼を行ったのである。
すると、匂いがまったくしない場所で依頼した時には、「はい、どうぞ」と承諾してくれた人は約20%だったのに対し、いい匂いの漂う場所で同じ依頼をしたときには、56%もの人たちが承諾してくれたのである。
ちなみに、バロンはコーヒーを妙る匂いだけでなく、クッキーを焼く匂いでも同じ頼みごとをしているが、やはり結果は同じだったのである。
いい匂いをかぐと、人は頼みごとを受けいれてしまう傾向がある
会社にいるとコーヒーをよく飲む、という人は多い。
自分でも飲むし、取引先に出向いた時にもコーヒーが差し出されてくる。
「喉が渇いているから」という理由ももちろんあるだろうが、実はコーヒーの匂いによって、穏やかな気分に浸りたいという無意識の欲求による部分が大きいのである。
不景気のために、経費削減の一環として従業員の飲むコーヒーを安いものに替えた、という企業は少なくないだろう。
しかし、これは大きな間違いである。
コーヒーの匂いは、従業員のやる気、作業能率などを高めるための貴重なエネルギー源なのだ。
だからこそ、むしろ香りの良い高価なコーヒーに変更してもいいくらいなのである。
会社への訪問客にも、香りの良い飲み物を出すようにしたい。
そして、暑さがひどくない限りは、なるべく「コールド」ではなく、「ホット」を出すように心がけたい。
なぜなら、ホットの飲み物のほうが、湯気があるために香りをより強烈に与えることができるからである。
こうした、取るに足らないように見える戦略が、ビジネスでの成功の明暗を分ける重要な要素となることは少なくないのである。
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お店が混雑しているほうが、お客様の買い物満足度が上がる
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
人間の心理は、周囲の環境にもまた左右される。
混雑度・天気・雑音・慣れた場所かどうか……、そんな些細なことで「説得」は格段に有利になるのだ。
S氏は、脱サラしてスーパーの経営者になった。
もともとデパート食品部門の営業担当の実績があるだけに、スーパーの経営もうまくできるだろうと思っていた。
しかし、現実はそれほど甘くなかった。
卵や牛乳などの日常生活に必要な製品は多少売れるとはいえ、その他の食品がまったく売れないのである。
というより、客が入ってこないのだ。
そのため、S氏はスーパーに関するさまざまな理論を参考に、商品の配置などをいじってみることにした。
しかし、こうした素人の付け焼き刃は得てしてうまくいかない。
どうして客が入らないのだろう。
地理的な問題も悪くない。
駐車場だってスペースはとってあるというのに。
私は、どこを改善すればよいかを知るために現場へ行ってみた。
出かける前には、はたして原因をうまく見つけることができるかどうか若干の不安はあった。
だが、なんてことはない、すぐに悪い原因を見つけることができた。
S氏のスーパーの駐車場には車が一台も止まっておらず、店内にはお店の従業員しかいないのがガラス窓を通して見えたのである。
「どうして駐車場に車がないのですか? 従業員の車もないのですか?」、
私が尋ねると、S氏はこう答えた。
「お客様に一台でも多く止めてもらうため、五分ほど離れたところに別の駐車場を借りました。従業員の車はそこに止めてあるのです」。
なるほど、客思いの良い考えではある。
しかしこれが元凶だったのだ。
私は、すぐにその別の駐車場を解約し、従業員の車をスーパーの駐車場に止めさせるように勧めた。
つまり、従業員の車をサクラに使い、一人でも客が入っているように見せかける工作を行ったのである。
その理由は簡単だ。
誰も客がいないお店に、あなた一人が入っていく場面を想像してほしい。
従業員の視線はすべて自分に集まるだろうし、なんとなく見られているようで落ち着かなくなるはずだ。
だからこそ、誰もいないお店には入りたくないのである。
したがって、駐車場に一台も車が止まっていないというS氏のスーパーは、お客からしてみれば不気味なお店でしかなかったのである。
「何で誰も客がいないのだ。
恐らく価格が高いか、雰囲気が悪いのだろう」
と思い込まれたのだ。
ある程度は他のお客がいたほうが、人はより満足を感じる
ということがわかっている。
これを消費者心理学では、「混雑満足度仮説」と呼んでいる。
一人だと不安を感じるが、多少のお客が他にもいると、自分も安心して買い物ができるという仮説だ。
しかし、
混雑の度が過ぎると、今度は逆に買い物満足度が低くなる
という研究もある。
つまり、「ほどほどに客が入っているお店が最適」なわけである。
下の図は仮説的な関係を示したものだ。

ただし、この理論的な曲線は必ずしもきれいに当てはまるとはかぎらない。
たとえば、消費者心理学者マークレイトのグループは、混雑とお客の満足についての実験で面白い結果を得ている。
つまり、
評判の店に行く時やバーゲン中のお店に行く時のように「どうせ混んでいるだろうな」と予想される場合には、混雑していればいるほど買い物満足度は高くなり、右肩あがりになる
のであった。
しかし多くの場合には、「ほどほどに混んでいる」店がやはりベストなのである。
したがって、以ヒのような心理学的調査の結果から、S氏のスーパーをよみがえらせる方法は明らかだろう。
つまり、
(1)従業員の車を駐車場に置き、ダミーとして利用する
(2)従業員には決まった制服を作らず私服で勤務させ、サクラの役目をさせる
などの戦略である。
すると、「だまされた」客が少しずつ来るようになり、しだいに混雑度と満足度が高くなっていくはずである。
価格を安くするとか目玉商品の広告をするという戦略ももちろん有効だろうが、お客を少しでも多く集めるためには、こうした「混雑度」を利用するテクニックも十分に活用できるのである。
S氏いわく、この戦略を採用したところ、最近ではお店の混雑度もあがり、まずまずの売り上げが見られるようになったという。
私としても嬉しいかぎりである。
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地位の低い人からの意見は採用されない
見た目でわかる外見心理学 人間は私たちが考えている以上に外見から影響を受けて物事を考え、行動している。人間の心理と外見の関係について、わかりやすい文章と、心理学実験を交えたイラスト・図版を多用して解説した。 | 「見た目」で選ばれる人 ミリオンセラー『人は見た目が9割』の実践編がついに登場! |
「これが、我が社の社運をかけたプロジェクトです。社員一同、一丸となってこのプロジェクトを成功させましょう」
こんな話をいきなり持ちかけられたとしよう。
しかも、会社全体のプロジェクトといったところで、あなたは入社二年目であるし、プロジェクトの企画段階にはもちろん加わっていないとしよう。
さらに悪いことに、プロジェクト内容をあなたがよくよく調べてみると、どう考えても成功するようには思えなかったとしよう。
こんな時、あなたはどうするだろうか。
上役たちの怒りを承知のうえで、「このプロジェクトには大きな穴があります」とやれるだろうか。
プロジェクトはもう実行段階なのである。
それでも止める勇気が、あなたにはあるだろうか。
実際のところ、そういう発言ができる日本人ビジネスマンはどれくらいいるのだろうか。
実は、このような状況におかれると、ほとんどの人は口をつぐんでしまうのである。
つまり、どんなに大きな欠点に気づこうと、意見を発表しないのである。
なぜこんなことが起こってしまうのか。
その原理に迫ってみる。
今から三十年近くも昔、シュタイナーという心理学者がおかしな現象に気がついた。
つまり、
ある計画が話し合われるとき、どんなに優れた指摘でも、それを発表した人の地位が低いというだけで受けいれられにくくなる
ことがわかったのだ。
シュタイナーはこうしたおかしな現象を「プロセス・ロス」と呼んだ。
どんなに正しい意見でも、地位が低い人から出た意見だと平気で握り潰される、という皮肉がここに潜んでいる。
問題をもっとクリアにするため、ちょっと次の間題も考えてほしい。
あなたは、
- 自分より年齢が下である
- 自分より役職が下である
- 自分より学歴が低い
- 自分より経験が浅い
という四つの条件のどれか一つにでも当てはまる相手の言うことを、素直に受けいれられるだろうか。
正直に考えてみてほしい。
恐らく、素直には受けいれられないのではないだろうか。
あなただけではない。
ほとんどの人がそうなのだ。
人間は見下している相手がどんなに的を射た発言をしても、間違いなくそれを拒絶する。
間違いなくそうする。
だから、会社の優秀な人たちが企画したプロジェクトが実行に移されるとき、地位の低いあなたがどれほど発言しても、そのプロジェクトは止まらないのである。
そして、ほとんどの人間は、そのことを痛いほど知っている。
悔しいが、この原理を認めている。
だからこそ、わざわざ発言するような野暮なことはしないのである。
ただし、これはあなたの保身のためには重要な選択だが、会社にとってみると、むざむざ失敗が見えているプロジェクトに費用と時間を注ぎ込んでいるわけで、まったくの無駄である。
だからこそ「プロセス・ロス」なのである。
入社して間もない人ほど、会社の内実に詳しくないから、何年も勤めている人よりも、新鮮で、客観的になれるというメリットがある。
つまり、入社して間もない人ほど、「あれ? ここを変えたらもっといいんじゃない?」という改善点に素朴に気がつくことが多いのだ。
それなのに、その改善点を上司に直訴できる人は少ない。
というのも、自分の地位の低さゆえに、「どうせ言っても無駄だ」と思うし、実際に言ってもほとんどの場合「何も知らないくせに……」と言われるのがオチだからである。
新入社員ほど、素晴らしいアイデアを出す余地がある。
ただ、それを受けいれられる下地が上の人間にないのである。
ある書物で目にした、養豚場での話をしよう。
かつて、生きた豚を車で運び、目的地で降ろす時には、板を荷台に斜めに立てかけて豚を歩かせていたという。
しかし豚は降りるのを非常に嫌がるので、棒でたたきながら降ろしていた。
しかもこの慣習はかなり長いこと続いたそうだ。
ところがある時、豚に詳しくない社長が視察の際にこの風景を見ていた。
そして、「なんで豚をぶつのか」と注意し、普通の板でなく階段状になっているスロープを作りなさいと命令したのだ。
「豚が階段を降りるのか?」といぶかりながらも、冗談半分に階段状のものをつくってみると、豚は喜んで自分から降りるようになったというのである。
これなども、素人の指摘が時として非常に役立つことを示している。
養豚所の業者の人は伝統に従うのだから、「豚は棒で打たないと車から降りないもの」という思い込みを持っている。
そのため、社長のような自由な発想ができなかったのだ。
だが、この提言が社長の言葉はでなく、若い従業員の勧めだったら、どうなっていただろうか。
おそらく養豚所の業者は笑って、こう答えたろう。
「黙って仕事しろ。俺のほうが豚には詳しいんだから」
これが、プロセス・ロスである。
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贈り物はビジネスに効果的?
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
贈り物の効果はいつまで続く?
賄賂とまではいかなくとも、贈り物をすることは、ビジネスにおけるひとつの慣習としてしっかり定着している。
お中元、お歳暮はもとより、お見舞い、御機嫌伺いなど、どこにでも贈り物はついてくる。
おそらく、ビジネスで関係のある誰かに贈り物をした経験がまったくないという人は、ほとんどいないであろう。
しかし、あなたは「はたして贈り物には本当に効果があるのか?」と疑問を抱いたことがないだろうか。
面倒くさい慣習だと思ったことはないだろうか。
あなたが受け取る側で、「いらないもの」を贈られて困ったという経験はないだろうか。
実際、大勢の日本人を対象にしたアンケート結果によると、「日本でなくしてほしい慣習」として、年賀状やお中元、お歳暮などが上位に挙げられていた。
つまり、ほとんどの人が贈り物をいやがっている、少なくとも不必要だと思っているのである。
しかしながら、あなたが依頼、要請、懇願、注文をしたいと思うなら、贈り物はきわめて重要なのだ。
というのも、贈り物をもらった人は気分が良くなり、こちらの言うことを受けいれてくれることが心理学の実験結果から明らかにされているからである。
アリス・アイセンは、
人を良い気分にさせれば、頼みごとを受けいれてもらえる
という現象を、数多くの実験で証明した心理学者である。
ただし、アイセンを筆頭とする心理学者グループは、さらに恐るべき結果をも兄いだした。
それは、
贈り物をもらったことで良い気分にさせておけるのは、せいぜい20分
だという結果である。
どうやら、人間は贈り物をもらってもずっと良い気分にひたっているわけではなく、20分もすると、もとの冷静な状態に舞い戻ってしまうようなのだ。
だからこそ、贈り物をしたらすかさず頼みごとをする必要があるとアイセンは述べている。
それはともかく、まずは実際の実験内容を詳しく振り返ってみよう。
実験は、ペンシルベニア州のランカスターという地区で行われた。
まず、実験者の一人が、戸別訪問のように一軒一軒まわり、応対してくれた主婦や旦那連中に「ただいま、フリーサンプルをお配りしています」と言っては、リボンのついた包みを手渡したのである。
もちろん、タダでもらえるものは悪い気がしない。
「ああ、こりゃどうも」という感じで、ほとんどの人が良い気分にさせられたのである。
さて、ここからが肝心なところだ。
最初の実験者が「それでは私はこれで……」と退散すると、別の実験者がその家に電話をかけ、頼みごとをしてみたのである。
ただし、贈り物をしてから電話するまでの時間が、実験的にいろいろと変更された。
時間はその直後から20分である。
次のグラフは、実験結果を示したものである。

このグラフからわかるのは、
贈り物をもらった直後のほうが、人は依頼を引き受けてくれる
ということである。
そして、20分経過後には、ほとんど引き受けてくれる人はいなくなるのだ。
これはどうしたことだろう?
恐らく、贈り物をもらった直後には、気分が高揚している。
そのため、依頼をポイポイと引き受けてしまうのだろう。
ところが、時間の経過とともに、そのような高揚した気分も薄れ始める。
さらに悪いことには、「どうして贈り物をもらったのだ?」という理由を考え始め、「これは賄賂と同じではなかろうか」と考えてしまうのである。
そのため時間がたった後に依頼をすると、今度は「モノで私をつろうとはけしからん」という反発のほうが大きくなって、それだけ拒絶率が増大する可能性が強まるのである。
だから、頼みごとをする時には、「こんなつまらないもので頼みごとをするのは誠に気が引けるのですけれども……」というように、ぐずぐずせずに頼みごとをしてしまった方がよいと断言できるのだ。
わざと時間がたってから、「実は頼みごとが……」と切り出すのはやめたほうがいい。
それでは、贈り物が賄賂であったことがばれてしまい、嫌な気分を引き出してしまうだろう。
どうせばれるのなら、こちらから最初に手の内を明らかにしてしまうほうが、結局は贈り物の効果が高まるのである。
贈り物をもらって悪い気分になる人はいない。
特にもらった直後には、だ。
なんとなく嫌な気分になるのは、時間がしばらく経ってからである。
人間には、こうしたあまのじゃくな心理があるのだ。
人間の困った性癖だと言ってしまえば、誠にその通りなのだが、原理さえ知っていれば恐るるに足りない。
「あの人は嬉々として贈り物を受け取ったくせに、こっちの言い分は聞かないんだよ」
と嘆いているあなた、
あなたはひょっとして、依頗するタイミングを聞違えていなかっただろうか?
カテゴリー:NLP、営業、経営の心理学講座
人間は他人の話を聞く時、どうしても身構えてしまうものだが、自然体でいるときに はこの防御がまったく働かない
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
以前、ある大手のドラッグ・ストアチェーンで万引きが多発し、莫大な損害がもたらされているとの報告があった。
万引きによって売り上げが伸び悩み、困っている会社や商店は多いであろう。
一番困るのは、万引きした者を摘発して、変な噂が流れないかどうかである。
つまり、せっかく万引きを防止しても、やり方が荒っぽく、「ダーティなイメージ」がついてしまっては大問題なのだ。
そのため、思い切った「見せしめ」を行うことができないというジレンマが存在するのである。
では、どうするか。
そんな場合に利用できるテクニックを紹介する。
それは、サブリミナル・メッセージを使うものだ。
「サブリミナル」という言葉を聞くと、映画のフィルムの中に何かの映像を隠すテクニックだと思われそうだが、それだけではない。
実は、音楽の中に別のメッセージを入れるサブリミナル・テクニックで、万引きを減らすことができるのである。
具体的な戦略はいたって簡単。
サブリミナル用の特殊装置を使って、店内放送で流す音楽の中に、二秒間隔で次のようなメッセージが流せばよいのである。
もちろん、このメッセージは意識レベルでは聞き取ることができないから心配はいらない。
「万引きするな。盗みは不正な行為だ。万引きするな。万引きするな……」
このサブリミナル・メッセージが有効なことは、アメリカの音響関連企業サウンド・スレショールド・システムズの社長ミッキー・パールマスが述べていることである。
パールマス氏は1990年にアメリカABCのニュース特集で次のように述べた。
「今では、アメリカの小売店ではどこでもサブリミナル・メッセージが組み込まれているよ」と。
サブリミナル・メッセージを聞くと、不思議なことに本当に万引きしたくなくなるのだ。
あたかも従順な羊のように、その言葉を受けいれてしまうのである。
その裏にあるメカニズムはこうだ。
通常、人間は他人の話を聞く時、どうしても身構えてしまうものだが、自然体でいるときに はこの防御がまったく働かない
そのため、サブリミナルで流されるメッセージは何の障害もなく消費者の頭の中に滑り込んでいくのである。
アメリカ東海岸で六社のデパートを対象に、サブリミナル・メッセージが効果的かどうかを調べた実験がある。
すると、そのメッセージの使用前と使用後(九ヶ月後)では、万引き率が37.5%も減少し、売り上げに換算して60万ドルも浮かせることができたというのだ。
サブリミナル・メッセージはメッセージを入れ替えるだけで、万引き防止テープになり、従業員のやる気を高めるテープになり、お客に物を買わせるテープにさえなるのだから、さらに驚きである。
つまり、「今日はお肉を買いなさい」といったメッセージを入れれば、お客の心などお構いなしに肉を食べさせることができるのである。
これは人道的には許されない行為だが、可能かどうかと問われれば、「可能」だと答えざるをえない。
日本ではこうしたサブリミナル・メッセージを効果的に流すシステムが公然と販売されているのかどうかはわからないが(サブリミナル・メッセージが入った簡単なCDは売っている)、アメリカではすでに売りに出されている。
ちなみに、パールマス氏が大手小売店の防犯部長をしていた時には、一店舗につき数千ドルの使用料を取って貸していたそうだ。
どうにも、恐ろしい機械があるものである。
ちなみに、私はサブリミナル映像を見たことも、サブリミナル・テープを聞いたこともある。
ある大学の心理学実験で用いられたものを拝借して見せてもらったわけだが、サブリミナル映像は画面がちらついて、いらいらさせられるものであった。
一方サブリミナル・テープはちょっとした雑音が入っているくらいにしか聞こえなかったので、使いたい人はテープのほうがよいだろう。
また、音によるメッセージは次のような理由からもお勧めできる。
人間がこの世に生を受けると、まず初めに接するのは母親の心音である。
つまり、人間が最初に接するのは「音」なのである。
子どもが母親の心音を聞いて落ち着くように、音楽というのは人間の心にダイレクトな影響を与える。
やがて目が見えるようになり、「視覚」が芽生える訳だが、「聴覚」のほうが先に使用されている点を考えると、心への影響力としては音のほうが強いと推測できる。
ちなみに、生まれたての乳児は、どんなものを見ても怖がらない。
ヘビやカエルを見ても泣かない。
ところが、救急車のサイレンのような高い音を聞くととたんに泣き出すのである。
音は喜びであり、恐怖であり、不安をも生み出すのだ。
だからこそ音は有効なのである。
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データの示し方:「分けて」示せ(分割法)
あなたは化粧品の訪問販売員。
会社は歩合制であるが、最低限のノルマが毎月決められている。
ノルマに達しない場合は、ボーナス・カットという一種の罰則もある。
しかし、最近、このノルマが厳しいということで若手社員から文句が出た。
ノルマをもっと緩やかなものに変えてほしいという運動が起こったのだ。
もちろん、上司側はこの運動に反対である。
あなたはちょうど中堅どころの役職であり、若手社員たちの意見と上司側の意見をなんとかして折り合わせなければならない立場にある。
さて、どうすればよいか……。
まず考えられるのは、若手社員たちの声を無視して握り潰してしまう戦略だ。
だが、この作戦は強引すぎて、彼らのやる気をそいでしまい、勤務怠慢などの副作用を起こす可能性があるかといって安易に変更したのでは、新入社員にはいい顔ができても、上司からは「あいつには監督能力がない」と思われてしまう。
あなたとしては、上司の意向に沿いながらも、若手社員を満足させるのがもっとも望ましい。
初めのうちは、若い社員を一人一人飲みにつれ出しては話を聞いていたのだが、これでは時間とお金の効率がすこぶる悪い。
こうした状況なら、やはりデータに語らせてはどうだろうか。
データというのは客観的な事実だから、あなただけの意見ではないことを示せる。
つまり、言い方は悪いかもしれないが「責任逃れ」ができるのだ。
そこでさっそく社内中でアンケートをとり、それをもとにノルマ変更派(若手)と、現行維持派(上司たち)の代表と会議を行うことにした。
ちなみに、アンケート結果は、「変更を望む − 60%」「現行維持 − 40%」で、明らかに上司側の分が悪い。
あなたは中立派と見られ会議の議長を押し付けられているが、裏では、上司からどうしても現行維持で押し通してほしいという強い要望がかけられている。
そこであなたは会議で使う資料に一計を施した。
次は、アンケート結果を示したものである。
問:あなたにとって、望ましい基本ノルマはどれくらいですか?
五十件(今のまま) 40%
四十件 26%
三十件 17%
二十件 12%
それ以下 5%
合計 100%
確かに、「変更を望む人」は60%もいるのだが、その望みはまちまちである。
したがって、とてもみんなの要望を叶えられそうもない。
その点、「現行維持」であれば少なくとも40%の人たちを満足させることができる。
多数決の原理からしても、やはり現行維持が望ましい。
こうしたデータを突きつければ、変更派の躊躇を誘うことは間違いない。
なぜなら、一口に変更を望む人が多いといっても、みんなの望みがバラバラなのだから。
これは、「分割法」……自分に有利なように、数字を分けよ……、というテクニックである。
『君主論』という書物を著したマキャベリによると、もっとも賢い統治法は、「少数に分割して個別に統治すること」であるという。
たとえば、ある国を攻め滅ぼして植民地をつくり上げても、もともとの地元民が反対している場合は統治が難しい。
いたるところでゲリラや反抗が生じるからである。
そうした場合には、「個別の反抗」をつぶすことで 「全体的な反抗」を食い止めることができるとマキャベリは言うのだ。
つまり、反抗の流れが全体としてまとまる前に、つぶしやすい少数者に目をつけ、それを完膚なきまでにたたきつぶすのである。
それを繰り返せば、全体としての反抗心は消失する、という算段だ。
さらに、分割法は警察の取り調べでも用いられている。
ある集団が逮捕されると、警察はその集団を一ヶ所に集めて事情聴取するのではなく、一人一人を個室につれ出して尋問するのである。
すると、集団ではいきがって反抗を続けていた人たちが、借りてきたネコのように従順になり、あっけなく白状してしまうことが少なくないというのだ。
先のアンケート結果も、実はこの分割法を巧みに用いたものなのである。
変更派データを一緒にしてしまうと60%の多数が変更を望むことになり、どうしても変更せざるをえなくなる。
そこで、「希望するノルマは?」という点によって少数に分けてしまい、変更派が望むノルマはみんな違っていることを強調するのである。
ちょっとズルイやり方だが、データが示しているのだから、あなたの責任ではない。
また変更派には、自分たちの要望を取り上げてもらい、社内会議にかけてもらったということで、ある種の満足感を与えることができる。
なかには、変更するかどうかが本当の問題ではなく、「ただ、話を聞いてもらいたい」というだけの人もけっこう多いのだ。
したがって、「○○さん(あなたの名前)、忙しい時に会議までかけてもらってすみません。変更してもらえなかったのは残念ですけど、ありがとうございました」との声まで届くかもしれない。
一方、上司からは、「○○君。よくやってくれたね。現行維持できて安心したよ」というねぎらいの言葉がかけられることは間違いない。
要は、データの示し方なのである。
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根拠の薄いデータでも、何度も何度も繰り返し提示するだけで信憑性のあるデータに化ける
消費者はよく特定の事実(たとえば、値段やブランド)だけに目を向け、他を無視するということをやる。
いや、消費者としてだけではない。
人間の視野はそれほど広くないため、われわれは一つの事実からすべてを判断し、行動を起こしていることが非常に多いのである。
データに対する我々の見方にも、同様のことが言える。
事実がたった一つしかなくとも、それを支持する報道が多くなされれば、それは「信憑性が高いのだ」と思い込んでしまう。
たとえば、1990年の後半にアメリカ中西部で起きた地震パニックについて考えてみよう。
ニューメキシコ出身の経営コンサルタント兼気象予報士であったプロウニング氏は、1990年12月3日に50%の確率で地震が起こるだろうと予測した。
しかも、マグニチュード6.5から7.5の、非常に大規模な地震であると推定した。
普通ならバカげたニュースとして失笑を買うところだが、中西部のテレビ局は、視聴率稼ぎにと何度も放送したのである。
もちろん、専門の地質学者には根拠がないとしてまったく相手にされていなかったのだが、何度も放送を見せられた人々はたまらない。
何度も放送されたことが話の信憑性を高めたのだ。
当然地震などは起きなかったが、イリノイ州の保険会社は地震保険で売り上げを伸ばすことに成功したのである。
ここから、興味深い心理法則が導かれる。
それは、
根拠の薄いデータでも、何度も何度も繰り返し提示するだけで信憑性のあるデータに化ける
ということである。
「こんなに繰り返すのは、信憑性が高いからだろう」という本末転倒の誤った推測をしてしまうからだけではなく、何度もそのデータ.に接することで、そのデータが記憶の中に深く埋め込まれることも一因だ。
しかも、1990年といえば、その前年の1989年にはサンフランシスコ地震の被害があったのである。
イリノイ州の住民はこの被害の記憶がまだ鮮明であったろうし、なおさらプロウニング氏の予測を信じやすかったのだろう。
データを何度も繰り返して提示することの有効性は、ウィルソンという心理学者によって証明されている。
ウィルソンは建築発注会社と下請会社の契約請求にかかわる民事裁判の最終弁論を収録したビデオを二つ作ってみた。
一本のテープには、親会社の言い分を弁護する 「10」の主張が盛り込まれており、もう一本のテープには「2、3」の主張だけが含まれていた。
もちろん、このテープを見た人々は、10の主張を見た時に、説得力が高いと感じていたのである(この場合82%の人が説得された。2、3の主張の場合には46%である)。
主張というのは数を多くしても内容はそれほど変わりばえのしないものだったのだが、数の多さによって、すなわち何度も繰り返し提示されることにより、説得効果が高まったと考えられる。
古典的な広告研究では、人々は同じ広告を3回見ると、もうその広告に飽きてしまうとされていた。
しかし、それはまったく同じ広告だったからである。
微妙に表現を変えれば、何度も何度も繰り返した方が説得力は高くなる。
実際、近年の広告研究では、繰り返すほどに効果が高まることを示す実験結果も揃ってきている。
最近、「○○編」 「××編」 というように微妙に内容を変えて(主人公は同じだが、シチュエーションや脇役やオチが変えてあったりする)、一つの商品に対する複数のCMが全く同時期に流されるようになっているのも、こうした効果を狙っているものと考えられる。
このようなCMは、目新しいものに人々は引かれるという「新奇性」と、本節で述べた「繰り返しの重要性」の両方を満たすものであるから、有効性が高いことはまず間違いない。
たとえば、この法則をプレゼンテーションに活かしてみるのはどうか。
同じデータであっても、グラフの作り方を変えたりして何度も提示するのだ。
同じものでも、「見方をこのように変えますと……」とやれば、繰り返すことにおかしさはない。
とにかく、人間の情報処理能力というのは限られているから、複雑な話を複雑なままで伝えるわけにはいかないのだ。
わかりやすいかたちに分割して、もっとも効果的な話だけを繰り返す。
これが人間の情報処理能力に見合った適切な方法なのである。
子どもを教育するのと同じように、わかりきったことを何度も繰り返す忍耐がビジネスにも必要なのである。
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スーパーマーケットの心理法則
スーパー・マーケット理論というのがある。
かれこれ30年以上も前に日本に輸入された理論だ。
最近では、この理論が効かなくなったと言われるが、果たして本当にそうなのだろうか。
ここでは基本的なスーパー・マーケット理論の一部を紹介して考えてみることにしよう。
最初に断っておくが、スーパー・マーケット理論というのは、まったく難しくない。
その内容を聞かされると、誰でも「ああ、なるほど」と納得できるものばかりだ。
というのも、誰しも一度はスーパーを訪れたことがあるわけで、お客の立場からこの法則を理解することができるからなのである。
では、さっそく論を進めよう。
ちなみに、ここで紹介する理論はロンドンとデラ・ピッタという消費者行動学の専門家が述べているものである。
スーパー・マーケットでは通路の端やレジの近くに置かれた商品がよく売れる
この心理メカニズムは簡単である。
つまり、人間は「最後にあるもの」を価値があると見なす傾向があるのだ。
通路を歩いて行き、終わりにさしかかると、人間はそこに置かれたもののほうが、途中に置かれたものよりも「良いもの」だと勘違いする傾向があるのだ。
これはちょうど、平積みされている本の一番上のものはとらず、二、三冊下のものを無意識に取ってしまうのと似ている。
また、一番手前に置かれた牛乳でなく、なるべく棚の後ろにある牛乳を手にとるのもそうだ。
人間は「最後の」「後ろの」「隠れた」商品を抜き出す傾向があるために、通路の端やレジの近くに置かれた商品をとってしまいやすいのである。
さて、次の法則に移ろう。
スーパー・マーケットでは、目の高さの棚に並べられた商品がもっともよく売れる
これも簡単な原理だ。
つまり、腰を折ったり、しゃがみこまないと取れない棚にある商品は「面倒くさい」のである。
ちょっとしゃがむだけなのだが、人間は根本的に面倒くさがり屋であり、その動作をしない。
第一、視線を下に向けて歩く人も少ないから、どうしても目線にある商品を選んでしまうのだ。
ちなみに、実際の研究では、目の高さにある商品の購買率を100%とした場合、腰の高さにある商品は74%、床に近い商品は57%しか売れないということもわかっているのだ。
だから、牛乳や肉、野菜などの日常的に必要で誰にでも売れる商品は腰くらいの高さの棚に置いているスーパーが多いのである。
肉や野菜は多少面倒くさいところに置いても大丈夫だからだ。
その点、あまり売れなそうな商品が目線の高さに置かれ、取りやすい位置に置かれるのである。
さて、最後の法則。
これは、専門用語で「バンドル・プライシング」と呼ばれる方法である。
一個50円の商品を二個100円にすると、まったく何も変わっていないのに、お客にとっての商品価値が高まる、という理論だ。
これに関しては面白い実験があるので、それをまずご紹介しよう。
左の箱には赤い豆が一つ白い豆が9つ入っている。
右の箱には赤い豆10個白い豆が90個入っている。
あなたは赤い豆を引き当てればお金がもらえる。
さて、どちらの箱で勝負しますか?
この実験はカークパトリックとエプスタインという二人の心理学者が1992年に行ったものである。
合理的に考えれば、どちらの箱を選んでも当たる確率は同じである。
どちらも10%なのだ。
ところが、人間はそれを分かっていても右の箱を選ぶのである。
実に3分の2以上の人がたくさん豆が入っている方が、当たる確率が高くなるものと思い込むわけだ。
バンドル・プライシングはこの原理を応用したものなのである。
つまり、
まったく同じことでも、数字を倍にするだけで人間はだまされる
これらが、スーパー・マーケット理論の一部分である。
どうであろうか。
あなたも三つの原理のうち、身につまされるものが一つくらいなかっただろうか。
スーパー・マーケット理論が効かなくなったという専門家は少なくない。
しかし、この法則は全然切れ味が鈍っておらず、切り方しだいでまだいくらでも活用の道があると思うのだが、みなさんはいかがだろうか。
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相手を安心させるなら右側から迫ること、逆に相手をやり込めたいなら左側から迫ること
ナンパをする時は、右側から忍び寄れ
ナンパのテクニックを教えてくれる塾があるという。
そこでは「必ず女性の背後から忍び寄ること」が鉄則だそうだ。
だが、私に言わせれば、それだけでは十分ではない。
「どちら側から?」を抜きにしては語れないのである。
セールスをする時には、客の心臓とは反対側、つまり右側から迫れ
人間は、知らず知らずのうちに、自分の心臓を守っている。
そのため、心臓に近い左側から近寄られると、無意識のうちに圧迫感を感じてしまうのである。
また、利き手が自由に使える位置に相手を置くと安心するという心理も働いている(よって、左利きの人を相手にする場合には、この法則の効果が若干弱まることも覚えておこう)。
これはセールスマンにとって必須の法則と言えよう。
以上のような理由で、左側に立たれると、お客はそれだけでいらぬ警戒心を抱くからである。
展示場でいきなり左側から近寄り、「いい車ですよ」とセールスのきっかけをつかもうと思っても、逆効果になってしまうのだ。
もちろん、この原理は、さまざまに応用可能である。
たとえば接待。
カウンター席などで一杯やりながら交渉をする時には、迷わず相手の右側の席を取るべきだ。
もちろん、あなたは左側に相手を迎え入れることになり落ち着かなくなるだろうが、相手には安心感を与えるので、好印象を得ることができる。
さらには、上司との関係にも役立つ。
上司に飲みに誘われたら、ここでもあなたが右側に行き、上司をリラックスさせてあげるべきである。
あるいは上司と一緒に歩く時は、右側を歩いてやるようにすると、知らず知らずのうちに安心感を与えることができよう。
「右側から忍び寄れ」の原理は、面白いことにまったく逆の原理をも教えてくれる。
それは、
相手を混乱させたり、威嚇したい場合には、意識して左側から近寄るのがよい
ということだ。
つまり、こちらとしては絶対に譲れない交渉の場合には、わざと強気に振る舞う必要があり、そんな場合には、左側から近寄ったほうがよいということである。
たとえば、パワー・プレイの一環として、相手の左側に一歩踏み込んでから握手を求めるのもよいだろう。
すると、握手を求めるために差し出したあなたの手が、相手にとってみれば心臓を貫く短剣のような働きをすることになる。
それだけで相手は服従を迫られるようななんともいやな圧迫を感じ、一歩後退するような素振りを見せるはずだ。
もちろん、握手の際から相手を後退させることができれば、その後の交渉で強気な態度を取るのはたやすい。
アメリカの政治家と日本の政治家の交渉場面を見ていて、ひどく感心したことがある。
あるアメリカの政治家が日本の政治家と対面した時、彼は右足を一歩踏み込み、日本の政治家の心臓をめがけて強気な握手を求めたのだ。
すると日本の政治家は腰が引け、差し出された手をまるで凶器か何かをさわるように、おどおどしながら握り返したのである。
もちろん、交渉はアメリカにとって有利に進められた。
一体このテレビを見ているどれくらいの人が、「日本の政治家は最初の握手の段階からすでに負けている」ことに気づいただろうか。
しかも、重要な交渉が決定した後で、このアメリカの政治家は戦略を変更した。
つまり、交渉後の晩餐会において、彼は日本の政治家の「右側」に回るようにして、にこやかに微笑みながら安心感を与える戦術をとっていたのである。
言ってみれば、アフターケアまで万全だったわけだ。
私はこのやり取りを見ていて、まさに本場のパワー・プレイに感動し、鳥肌がたったのをよく覚えている。
結論しよう。
相手を安心させるなら絶対に右側から迫ること。
特にセールスマンはこの原則を忘れてはならない。
逆に相手をやり込めたいなら左側から迫ること。
この原理は、強気な交渉や営業をしたい人にとって必要だ。
たったこの二つの原理を知るだけで、あなたの交渉スキルは格段にアップするに違いない。
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緊張を和らげる最も手っ取り早い方法
どんなにビジネス経験を積んでいても、人前に出るとあがってしまうという人は多い。
見知った人だけで行われる社内会議でさえ、みんなの視線が自分に向けられると、発言することにとまどう人もいる。
プレゼンテーションの資料の出来栄えがいくら素晴らしくとも、それを発表する人の緊張がひどければ、製品の良さをうまく伝えられないこともある。
一般に、日本人は内気な国民性を持っているので、この間題に悩むビジネスマンは潜在的にかなり多いことだろう。
ほとんどの人は、緊張を和らげるために、手のひらに「人、人、人」と書いてそれを飲み込むしぐさを、人生の中で一度くらいはしたことがあるだろう。
あるいは、自分を見ている人たちを「ジャガイモかキャベツだと思い込む」努力をした人もいるのではなかろうか。
もっと悩みの深刻な人は、怪しげな自己啓発セミナーに参加し、「人前であがらない」催眠をかけてもらったことがあるかもしれない。
これらの方法は本当に効果的なのだろうか?
たしかに心理学のひとつの原理として、「メンタル・コントロール」というものがある。
ひとことで言うと、心の持ち方ひとつで緊張を減らすことができるという原理である。
だから観客をジャガイモと思い込んだり、自己催眠で気持ちを落ち着かせるのはたしかに心理学的には、正しいといえるのかもしれない。
けれども、ほとんどの人の理解には多少の誤解が混じっている。
実は、メンタル・コントロールは一種の訓練法であるから、「直前にいきなり」身につくものではないのである。
メンタル・コントロールを行いたいのなら、少なくとも数ヶ月にわたる反復訓練が必要なのだ。
したがって、プレゼンテーションの直前に、「ジャガイモ、ジャガイモ……」などと唱えてみたところで、正直あまり効果は期待できない。
効果を出せるのは、よほどの訓練を積んだ人なのだ。
ところが、心理学をほんの少しばかりかじった人は、すぐにもメンタル・コントロールができるものと勘違いしてしまう(そのように本を書く、多くの心理学者にも責任はあるが)。
努力もせずに、いきなりメンタル・コントロールができない以上、ここではもっと手軽に実行でき、しかもかなりの成果をあげる方法をお教えしよう。
実は、
緊張を和らげる最も手っ取り早い方法は、自分のよく知っている「身近な物」にふれること
である。
たとえば、つき合っている異性の写真、お守り、よく手になじんだボールペンなどにふれることが、何にも勝る緊張解消の手段なのだ。
もし、そのような物がなければ、自分の体をゆっくりとさすったり、探んであげるのもよい。
デズモンド・モリスという動物行動学者は、人が緊張状態におかれると、無意識のうちに自分の髪の毛や腕などを触るしぐさが増えるとの観察結果を発表しているが、こういう自然な緊張解消法のほうが付け焼き刃のメンタル・コントロールなどより2倍も3倍も有効なのだ。
ちなみに、自分の身近な物を身につけているだけで、しだいに落ち着いてくるという心理学的な事実は、ボーンスタインという心理学者によっても明らかにされているのである。
だとすると、採用面接を受ける大学生たちが、おろしたてのスーツに身を包むのは、心理学的に見ると大間違いであると言える。
新品のスーツを着ているだけで、無駄に緊張が高まってしまう。
だから、実際の面接目までの間に、ある程度自分の体になじませたスーツを着て行くほうが落ち着くはずなのである。
重大な交渉をかかえたビジネスマンも同じである。
相手に良い印象を与えようとして、わざわざ新しいスーツを作るのは、いたずらに緊張して普段の実力が出せなくなる恐れがある。
着慣れたスーツに勝る武器はないのである。
受験生が試験日に使い慣れた消しゴムとシャープぺンシルを持って行き、新品の消しゴムを持っていかないのは、心理学的に正しいことなのである。
さて、結論しよう。
身近な物を一つだけ持っている。
それだけで緊張解消法としては十分な効果を持つ。
使い慣れたボールペン、着慣れたスーツは、「愛着がある」以上に力強い効果を発揮してくれるのである。
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売リ文句の法則
食品・生活用品・流通・ファッション等、各種商品につけられた名チャッチコピー6,000本以上を一挙に収録。
コピーライター・広告関係者をはじめ、個人商店・ネットショップなど、モノを売りたいすべての人のバイブルとなる1冊。
商品を世に送り出すとき、もっとも悩むのがキャッチコピーの文句や、広告の打ち方であろう。
どんなに良い商品でも、さえない文句では売れないし、広告をいっさいしなければ、誰の目にも止まらずに消えてゆくことは目に見えている。
広告などは専門家にまかせてしまえばいい、と言えばそれまでだが、ある程度の法則は普通のビジネスマンも知っておくべきだし、必ず役に立つ。
ここでは、心理学者や広告研究家による成果の一部を紹介してみよう。
主にバートンという研究者によって明らかにされた法則である。
まず、第一の原理。
広告に含まれる言葉のニュアンスによって、消費者の購買はガラリと変わる。
具体的には、
「新しい」「手軽な」「素早い」「自然にやさしい」「健康に良い」「驚くべき」「従来と比べると」といった言葉を含む商品は売れる
なるほど、確かに多くの商品には、上のような文句がやたらとついているのは経験的によくわかる。
中には、保存料や着色料がふんだんに使われているのに、「健康に良い」という何やら矛盾した文句が載せられている食品などもある。
ちなみに、どのような売り文句を大衆が好むかは、文化によって大きな影響を受ける。
たとえば、日本やアメリカなどの先進諸国では、「自然(ナチュラル)」という文句が非常に目を引くようで、「髪にやさしい自然な」シャンプーが爆発的に売れたことがある。
ところが、同じ製品がインドに輸出されたとき、森林の多く残るインドでは「自然」という文句がまったく効果を持たないことがわかったのだ。
そこで、同じ製品であるにもかかわらず、「このシャンプーは都会派の女性用です」という文明的なにおいを感じさせる表現に変えられたというのである。
時代と地域によって、好まれる表現が違ってくることを示す好例だと思う。
次に第二の原理について述べよう。
これは、
「動物」「赤ちゃん」「セックスを連想させるもの」を用いた商品が売れる
ということである。
動物が好まれる、というのは感覚的に理解できよう。
日本であると、小猫、小犬、小熊、馬などが広告に好んで使われる動物であり、ヘビ、カエル、トカゲなどが使われることは少ない。
一般には乳類の動物が好まれ、は虫類や両生類の動物は敬遠される傾向にある。
恐らく、より身近な動物であればあるほど、広告効果はあがるのだろう。
その意味で、日本人にとってもっとも身近で、もっとも広告効果のありそうな動物を選べと言われたら、私は「犬」と答える。
信頼できる文献によると、日本人は古くから犬を飼う風習があったようで、しかも犬は邪気を払うことのできる神聖な動物として崇められていたらしい。
神社の境内の入り口にも、狛犬が座しており、不浄な輩を退ける役割を担っている。
その点、猫は長生きすると妖怪になるとも言われているし、犬よりも人になつかない習性を持っているために身近さの度合いはやや低い、という理由からである。
次に「赤ちゃん」を用いた広告であるが、ある心理学の実験によると、赤ちゃんの写真を見ると、男女とも無意識のうちにニッコリと微笑んでしまうことがわかっている。
動物行動学者のローレンツは、赤ちゃんが可愛いのは、それによって大人の攻撃を避けるためなのだとさえ言っている。
つまり、赤ちゃんの写真が載せてある商品というのは、人々の気分を和ませるために購買されやすくなるのである。
最後に、とりわけ売り上げを伸ばすのは、「セックスを連想させる」広告である。
セックスを連想させる広告といっても、それほど露骨でなくともよい。
つまり、水着やミニスカートをはいた女性を広告に載せるだけでOKなのだ。
しかし、きれいな女性が出てくる広告が男性に効果を及ぼすのは当然としても、どうして、女性にも効果を及ぼすのだろうか。
実は、ある調査によれば、男性は広告に出てくる女性を見て「こういう女性を自分のものにしたい」と願うのに対し、女性のほうは「こういう素晴らしい女性になりたい」と願う。
そのため、きれいな女性が出てくる広告は、男性にも女性にも有効なのだという。
確かに広告を作るのは専門家の仕事かもしれない。
しかし、一般的な法則を知っているのと、まるっきり知らないのとでは話が違いすぎる。
商品を宣伝するだけでなく、自分をアピールするため、自分を売り込むためにも、法則を用いて「売り文句」を磨いていくことが大切なのである。
念のため、売り文句の大切さを示す例をもうひとつ出しておこう。
初期のコンピュータ産業における製品名を5つ並べてみた。
あなただったら、どの製品名がいいと思うだろうか。
- Apple �U
- Commodore Pet
- IMSAI 8080
- MITS Altair 8800
- Radio Shack TRS-80
「僕は英語が苦手だから……」などと謙遜する必要はない。
誰が考えても、「Apple �U」が売れただろうなとわかる。
他の製品には機械的な名前がつけられ、人間的な優しさがまるで感じられない。
恐らく、それぞれの企業としては「コンピュータは高い技術力の結晶である」という印象を強めたかったのであろうが、それではお客の心が離れるに決まっている。
どことなく「自分には緑のないもの」と一般に思われてもしかたがなかったのだ。
その点、アップル・コンピュータ社のネーミングは巧妙である。
身近な存在を感じさせ、どことなく愛くるしい感じがする。
コンピュータにともなう機械的なイメージを緩和させるのに最適なネーミングだったのである。
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瞬時のひらめきが熟慮に勝ることがある
あなたは閃きを信じるタイプ? それとも熟考タイプ?
ビジネスとは決断である。
果断な決定こそ、成否の境を分ける。
そして、決断にあたっては、じっくりとすべての情報を吟味してから決定を下すタイプの人と、一瞬のひらめきですべての物事を両断する人という二種類のタイプがある。
かの名探偵シャーロック・ホームズは前者のタイプだったらしく、こんな名言を吐いている。
「すべての情報を手に入れる前に、考えをまとめてしまうのは重大な誤りである。それは判断を曇らせるだけだ」
なるほど、世界中に知られている名探偵が言うのだから、納得できるところもある。
この言葉にうなずくビジネスマンや経営者は少なくないだろう。
しかし、シャーロック・ホームズの言葉に真っ向から「待った!」をかける実験があるのだ。
いくら名探偵の言葉とはいえ、その内容は科学的実験結果と矛盾すると言うのだ。
瞬時のひらめきが熟慮に勝ることがある。
特に、
どんなに頑張っても追加の情報が得られない場合には、第1印象に頼ったほうが素晴らしい決定を下せることが多い
こんなことを言い出したのは、ウィルソンとスクーラーという二人の心理学者だ。
シャーロック・ホームズの信望者には申し訳ないが、まずは少し腰を落ち着けて次の実験を見てほしい。
目の前の机の上には、いくつか異なるブランドのイチゴのジャムが並んでいる。
ジャムのビンには覆いがなされているので、もちろんブランド名はわからない。
これは一般的なマーケット・テストと同じである。
参加者たちの課題は、このイチゴのジャムを少しずつ食べて、もっとも品質の良い高級なジャムを選び出すことである。
言うまでもないことだが、参加者たちはジャムの専門家やグルメではない。
どこにでもいる、普通の舌を持った人たちだ。
さて、いざ実験開始と思いきや、ウィルソンたちはそこで実験的な操作を加えたのである。
それは、一方の人たちには、「あなたの第一印象でパッと選び出してください」と頼み、もう一方の人たちには「よくよく考えてから、一番良いジャムを見つけ出してください」と頼んだのだ。
こうして、どちらかの条件に割り振られると、参加者たちは思い思いにジャムを手にとっては口に運んでみた。
そして、彼らの選んだものと、専門家が選んだものとで、どれくらい一致するかを調べたのである。
結果は、驚くべきものだった。
「パッと選んでください」と言われ、第一印象で瞬時に選び出した人たちと専門家の意見が、まさしく一致したのである。
逆に、じっくりと考えに考え、ゆっくりと選んだ人は、ことごとく専門家の選んだジャムとは違うものを選んでしまった。
実験参加者たちは、ジャムに関して素人である。
そのため、どんな基準でジャムを選べばよいかはわからない。
つまり、いくら考えても情報は増えないのである。
こうした場合には、瞬時のひらめきを信じ、それに頼ったほうが優れた決定に近づく、ということを示しているのだ。
ビジネスの世界で、決定にあたってすべての情報が手元にそろっているということはまず有り得ない。
不確実な情報の中から、手探りで決定することのほうが多いはずである。
だからこそ、こうした状況の中では瞬時の判断をしたほうが、結果としてみると、良い方向に転がっていることが多いのである。
とはいえ、情報を集める作業を軽視してよい、というわけではない。
決断にあたっては、可能な限り十分な情報を吟味することは良いことだと思っている。
しかし、役に立つ情報がすべて出揃うことは決してない、ということを認識しておかないと、いつまでたっても決定が出せないジレンマに陥るのだ。
特に、日本人のビジネスマンは小田原評定が大好きな人種なので、しばしば決定が遅れがちになることが多いのだから、瞬時の判断(英語ではスナップ・ジャッジメントという)を積む訓練をしてちょうど釣り合いがとれるのでは、と思うのである。
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素早い判断が出来る人になる方法
「社長の仕事」のなかでも、最大のものは「決断」である。
新規事業への進出、不採算部門からの撤退、事業の再構築など「決断」の中身はさまざまだが、「決断」しなければ会社の進路は定まらない。
「やる」か「やらないか」、それを決めるのはトップの強い意志である。事業に対する熱意だ。
「決断」に際して求められるのが「先見力」である。
コンピュータの普及もあって、座って作業をする機会は増える一方だ。
出勤してから退社するまで、ずっと座りっぱなしという人もいる。
また、通勤時間の往復3時間もずっと電車に座りっぱなしなので、まさに朝から晩まで、椅子に釘づけの人もいるであろう。
こうした日常に慣れてしまうと、立つのがおっくうになりがちで、たった数駅の電車でも空いた席はないかと目をキョロキョロさせてしまうことになる。
確かに、座っているのは楽だ。
立ち仕事を30分するよりも座って一時間の作業をするほうがずっといいという人も多い。
しかし、疲れるからといって座ってばかりいるのはどうだろうか。
実は、文書をタイピングするとか、判子を押すだけといった作業の場合には、座っていても何も問題はないのだが、「急ぎの決断」が迫られている時には、立っていたほうがよいことが明らかにされているのである。
人間は立っている時のほうが座っている時よりも決断が速くなる
このような驚くべきデータが、アメリカで発見された。
南カリフォルニア大学のパーカイン教授の研究が明らかにした実験結果である。
彼は、座らせた人間と立たせた人間の大脳反応を比較し、立たされた人間は血液の循環の関係で大脳反応が敏感になり、座っている時に比べて、5〜20%も決断時間が速くなることを見いだしたのだ。
つまり「立っている人間は血のめぐりがよい」ということである。
したがって、その場その場での判断が重要な作業に従事する人は、「座っていてはいけない」ということがいえるのだ。
たとえば、あなたが取引先から電話を受け、その場で即断しなければならない状況に置かれたとしよう。
しかもあなたは優柔不断な性格で、普段ならなかなか瞬時の判断が下せないタイプの人物だ。
そんな時は、椅子から腰を浮かせ、立ちあがってから判断を下すのがよい。
なぜなら、立っているほうが大脳反応はずっと敏感になるからだ。
瞬時の判断が必要な新聞記者、警察官などは、よく腰を浮かし、机に身を乗り出すようにして電話を受けている。
それなども、椅子に深く腰をかけて電話を受けるより、立ち上がっている状態のほうが、ずっと速く判断を下せるからなのだ。
立ち上がっている人は、「俺はすぐに駆け出すことができるぞ」ということを、まさに身をもって示しているのである。
もちろん、立っている人を見た周りの同僚たちも、「○○は決断が速そうだ」という印象を持つであろうから、立つことには二重にメリットがあるといってよいかもしれない。
考えてみれば、プロ野球の監督も、ベンチでは試合中は立ったまま指揮をとる人が多い。
いつもならベンチに腰掛けているのに、ピンチやチャンスの場面になると自然と立ち上がってしまう監督もいる。
こうした現象も、恐らくは、試合の流れのなかで重要な場面がくると、素早い決断が迫られるために無意識のうちに立ち上がり、大脳への血の流れをよくしているのだろう。
じっとベンチに座ったまま指示を出そうとすれば、わずかに判断が遅れるということもある。
疲れの見えたピッチャーを交代させるタイミングがほんの一球遅れただけで、勝負に負けることだってある。
これは、大脳生理学的に見ても適切な行動をしていると言えよう。
他にも効用がある。
もしあなたが上司の立場にあり、部下からあっと驚くようなアイデアを得たいと願うならば、座ってばかりの会議よりも、時には立って考えさせればよい。
有能な上司なら、疲れるのを承知で、わざわざ「立ち飲み」のお店に部下をつれ出して、いろいろな話を聞き出すのもよい。
アイデアに詰まった時には逆立ちをして考えてみたり、部屋中をうろうろと徘徊するという著名な企業家は少なくない。
つまり、体を動かすことで、頭の中に澱のように沈んだ考えをかき回し、表面に浮かばせるのである。
「自分にはオリジナリティがない」
「アイデアが浮かばない」
「優柔不断で判断が遅い」
そんな悩みを持つあなたは、もしかしたらいつもじっと座って考えているのかもしれない。
「立って考える」。
実に簡単なことだが、試してみる価値は十分すぎるほどにあるのではないだろうか。
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話すら聞いてもらえない相手の興味を自分に惹きつける営業テクニック
ある食品メーカーの営業部に勤めているH君、彼からは営業テクニックについての相談を受けたことがある。
そのひとつをご紹介しよう。
今回、ある新製品が開発され、H君はその新製品をデパートの食品売り場に置いてもらうよう、さっそく説得に出かけることになった。
しかし、どのデパートを訪れても駄目。
交渉も何もない。
聞く耳すらもたれないのだ。
「うちは駄目だ、それどころじゃないですよ」
「置く場所がないよ」
「とりあえず今は、新しい商品よりも、既存の売れ筋を置くようにしているんですよ」
不景気のせいだろうか、「とりつく島」がないのである。
「とりあえず話だけでも……」という言葉さえ飲み込み、重い足を引きずって店をあとにする日々が続いた。
交渉術には多少の心得はあるものの、話を聞いてもらう機会がないのではどうしようもない。
相手にとっても絶対に悪くない話なのに…・‥。
それだけは自信がある。
新製品のパッケージは食欲をそそる色が使われているし、味つけはヘルシー志向の人にも好まれるものにしている。
売れないわけはないのだ。
だが、製品を置かせてもらえないことには話にならない。
「どの店も、すぐに断る。何も考えずに」
営業マンなら身につまされるこの悩み、どうすれば解決できるだろうか?
私は迷わず「ピーク・テクニックを使ったら?」と彼に勧めたのである。
[ピーク・テクニック]……ピーク(pique)とは、「好奇心をそそる」という意味である
つまり、最初に「おや?」と思わせておいて、十分にこちらに注意を引きつけてから、ゆっくりと話を進めるやり方である。
サントスという心理学者がいる。
サントスは他の心理学者たちと協力して、街頭実験を行った。
「すいません、お金を下さいませんか?」という依頼を遺行く人々にしたのである。
服装はふつうなのだが、理由もつけずいきなりそう尋ねたのだ。
もちろん、アンケートや勧誘と同じく、ほとんどの人に無視されてしまった。
実際、サントスが調べたところ、お金を恵んでくれたのは23%の人だけだったのである。
そこで、サントスはやり方を変えてみた。
今度は「すいません、17セントいただけないでしょうか?」と聞いてみたのだ。
そう言われると、半数近くの人がお金を渡してくれたのである。
なぜか?
普通お金を借りる時は、金額は指定しない。
しかし、その常識をあえて破ることで、人々は好奇心をそそられ、お金を貸してしまうのである。
「どうして17セントなのだろう? これは、よほど大切なことに違いない」
と思ってしまうのだ。
これがピーク・テクニックなのである。
話すら聞いてもらえない時は、ピーク・テクニックを使おう。
そうすれば、「とっかかり」をつかむことができる
ピーク・テクニックは、広告業界でも盛んに使われている。
広告は、まず何よりも人々の注意を引かなければならないため、「常識破り」をしようと工夫するからである。
たとえば、他社の広告が美しいコンピュータ・グラフィックスの映像を用いるなら、こちらは素人が手書きしたようなアニメで勝負する。
他社が自社製品をはめ上げるなら、こちらはあえて自社製品をけなしてみる。
昔「としまえん」は、わざと「史上最低の遊園地」という思いもよらない広告を出して人々の目を釘づけにした。
「青汁」のテレビCMも「うーんまずい!もう一杯」などという奇抜なフレーズで、人々の好奇心を誘っている。
広告はほめるもの、という常識があるので、あえて逆の宣伝をすることで、人々の注意を引くことができるのだ。
「まずい」という文字を逆さまにして、「まずいの反対で『うまい』」ことをほのめかす暖簾を出している店を見たことはないだろうか。
交渉に持ち込むためには、相手の好奇心をそそることが何よりも重要なのだ。
「ああ、うちはだめだよ」
「不景気だから」
「夫に相談しないと」
といった常識的な言葉が返ってくるのは当然だ。
だから、好奇心をそそるような返し手を、あらかじめ用意しておくべきなのである。
H君の話に戻ろう。
私は彼に次のようなアドバイスを与えた。
交渉を始める前に、
「43秒だけ時間をください。その間にがんばって説明させてもらいます」と言いなさい、と。
どんなに忙しい人種でも、43秒すら割けないということはありえない。
だから、こういう文句で好奇心を誘ってから話し合いをするのが良いのだ。
すると、すべてとは言わないが、「それじゃ長いよ。20秒で頼む」とにっこり微笑みながら冗談を返してくれる人や、「なんで43秒なの?」と理由を知りたがる人や(そのような人に対しては「アピールしたいポイントを詰めに詰めたら、43秒で話せることがわかったんです」と答えるようにした)、「ほんとに43秒かどうか計っているからね」といたずらっぽく時計を見る人が出てきたのである。
少なくとも「話は聞いてくれる」人が間違いなく増えたのだ。
ピーク・テクニックには気分を和ませる付加価値もある。
相手を「おや?」と思わせる、自分なりの言葉やふるまい、資料などを日頃からストックしておくとよいだろう。
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電子会議やEメール会議は有効か?
経済企画庁の調査(1999年3月)によると、若い独身者の携帯電話普及率が7割を超えたという。
しかし日常生活を見てみると若い人に限らず、ビジネスマンたちのほとんどが携帯電話のお世話になっている。
つまり、携帯電話は現代に欠かせぬビジネス・ツールなのだ。
ところで、こうした携帯電話やEメールなどのニュー・メディアは本当にビジネスにとって役に立つのであろうか。
また、どういう場面で役に立つのだろうか。
ここでは、ニュー・メディアとビジネスとの関連性について心理学のメスを入れてみたい。
まず、携帯電話であるが、このツールが便利だということは、誰も異論がないだろう。
わざわざ公衆電話を探す必要がないし、どこでも話すことができる。
待ち合わせの時間に遅れそうになっても、一本のお詫びの電話を入れておけるので恩恵を受けているビジネスマンも多いはずだ。
けれども、いい事ばかりとは限らない。
キースラーという心理学者は次のように述べている。
電話の場合、物事に決断を下すのに時間がかかる。つまり、性急に結論を下したり、交渉相手に決断を迫る場合には、電話上だと不利になってしまう
なぜ、こんなことになるのか。
人間の心理から根本的な原因を探ってみよう。
実は、人間が結論する場合、話の内容だけでなく、相手の身振りを情報として仕入れ、その情報をもとに決断を下していることがわかっている。
たとえば、相手が顔をしかめていれば、その情報をもとに「これ以上厳しい条件を提示しては駄目だ」と判断を下せるのだし、相手に余裕のある素振りが見えたなら「価格を上乗せしてやろう」といった決断をしているのである。
ところが、電話では相手の声しか情報的な手がかりがない。
そのため、いつもよりずっとたくさんの情報を仕入れないと、人は決断できないのである。
さまざまな調査からは、相手の身振りが情報量のおよそ70%以上を占め、話した内容はそれほど重要な情報ではないということが示されている。
最近では、TV画面付きの電話も出てきたが、電話といえば一般には「声」だけが手がかりだ。
だから、電話を用いて相手に決断を迫るのは、まだまだ難しいといえよう。
ちなみに、情報量が少ないということは、間違いを犯しやすいということでもある。
たとえば、ある男性が電話中に冗談で「別れよう」と言ったところ、それを聞いた女性が本気にして別れてしまった。
これなども情報が少ないために、「うまく本音を解釈してもらえなかった」ことが原因である。
電話は意外に恐ろしいのだ。
では、Eメールはどうか。
デュプロスキーをはじめとする心理学研究チームがEメールを用いた電子会議の実験を行っているので、結果だけをご紹介しよう。
彼らが発見した一番良好な結果は、Eメールを用いた会議では、議長とかリーダーといった地位の差をなくすことができる、ということだった。
すなわち、普段なら固く口をとざす人たちが、Eメールを用いて話し合いをさせると、活発に話し始めるのである。
つまり、
Eメールを用いた話し合いでは、自由な雰囲気のために、参加者の発言量が増える
と言えそうなのである。
よく「ネット上で話しているぶんには面白い人だったのに、実際に会ってみるとがっかり」というのを聞くが、これもコンピュータ上では、自由な空間での話が許容されているからである。
会議が煮つまったり、アイディアがこれ以上出ないと思われる時には、強制的に会議を終了してしまい、帰宅後にパソコンで話し合いを続けるのはどうだろうか。
また、社長の威厳がありすぎると部下が萎縮してしまうので、こんな場合も電子会議をしてみるのがよいかもしれない。
ビジネスでは、どんどん新しい技術、新しいツールが導入される。
したがって、コンピュータが嫌い、などと言っている時代ではない。
ニュー・メディアという言葉を聞くと恐怖を感じるビジネスマンもいるようだが、できるかぎりの努力をして最先端のツールを使いこなす、これは大事なことである。
ただし、それに頼りすぎてもいけない。
決断を迫るなら対面状況、すなわち、相手のところに出かけていくことが必要なのである。
電話で「急いでくれ」とせかすより、自分で出かけていき、「急いでくれないか」と頼むほうがかえって効率がよかったりするのだから、面白いものである。
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依頼・交渉・懇願は、ホーム・グラウンドで行う
あなたは地方の支社に勤めるビジネスマン。
しかし、この度、支社の現況の説明会をかねて都会の本社に出向くことになった。
ところが、あなたは必要以上に緊張してしまい、説明すべきところの半分も説明できずに終わってしまった。
結局、説明会というよりも、自分の恥をさらすためにわざわざ本社に行ったようなものである。
どうして、「見知らぬ場所」だと人間は緊張するのか。
そういえば、プロ野球チームも、自分のホーム・グラウンドで試合をしたほうが勝ちやすいといわれる。
ホーム・グラウンドのほうがより大きな力を出せる
そう、これは事実である。
動物行動学にも心理学にも、こうした事実を裏づける実験結果が山ほどある。
たとえば、ラジェキーたちの観察によると、普段は臆病な小犬であっても、自分の家の庭に入り込んできた大きな犬を追いまわすことができるという。
鶏もそうで、自分の檻へやってきた他の鶏を、もともと住んでいた鶏は体格にまったく関係なくつっつきまわすというのだ。
アルトマンという心理学者がバスケットボール・チームの過去の対戦成績を調べたところ、やはり自分のホームでの試合の場合に勝率がグンと高まることがわかった。
さらに、次のような面白い実験もある。
これは、テネシー大学のコンロイとサンドストロムという学者によって行われたものである。
彼らは、大学生たちに討諭させる時、なぜか大学寮という場所を選んだ。
そして、自室である人と、その部屋へいわば「お客」としてやってきた人の発言量をストップウォッチで記録してみたのである。
すると、自室の所有者は自由に発言していたのに対し、部屋に訪れた人はなかなかそうはいかなかった。
特に顕著だったのは、二人の意見が食い違った場合で、この場合には、自室で討諭した人のほうが、発言量は圧倒的に増えていたのである。
結局、こうした実験結果は、「ホーム・グラウンドは絶対的に有利だ」ということを示している。
もちろん、この原理は、ビジネスでも応用できる。
たとえば、会社の重役に対して、ヒラの社員が逆らいがたくなるのは、重役ほど「個室」にいることが多いからである。
個室というのは、いわばその人の「優位空間」であるわけで、この中でならその人物のパワーはいやがうえにも高まってしまうのだ。
だから、あなたが重要なポストにいて、しかも個室を持っているのなら、部下に依頼をする時などは、自分の個室で行うようにすればよい。
接待場所の指定を行うときに、「自分の行きつけの店」を選ぶのは、ビジネスマンの常識だ。
行きつけの店というのは、言ってみれば、自分のホームであり、自宅に相手を招き入れるようなものだ。
したがって、「あ、トイレはそこの角を曲がって右ですよ」という何げない一言でさえ、柏手には潜在意識化で十分すぎるほどの威圧感を与えるのである。
もし交渉相手に場所の選定をされてしまったら、交渉が行われる約束の日までに少なくともその店に数回は足を運んで、従業員たちと顔見知りになっておくべきである。
そうすれば、お店に入るやいなや、「またいらっしゃいましたね」と従業員に声をかけてもらえるはずで、その時点からそのお店は自分の「優位空間」に早変わりするわけである。
もちろん、下見に来たと思われないために、「つい先日もこのお店で○○社との交渉がありまして……」とやれば、あなたは多忙な身で重要な人物であるという印象さえ与えることができる。
大学で理論物理学を教えている教授が講堂にいる時には、学生たちは親しげな口を聞くことは許されない。
ところが、いったんホーム・グラウンドである大学を離れると、その大学教授は単なるオジサンになってしまうのだ。
医師も白衣を着て、病院というホームにいる間は患者たちから尊敬の眼差しで見られるが、いったん病院を離れてしまうと、単なる一市民に戻ってしまう。
教授や医師の例は、自分のホームが「優位空間」となって威厳を高めていることの証拠である。
次の例を考えてみてほしい。
あなたが道端を歩いていると、誰かが、
「私は医師です。見たところ、あなたはすい臓が弱っているからこの薬を飲みなさい」
と言って、怪しげな薬を手渡してきたとする。
この時、あなたは「ありがとう」と言ってその薬を飲むだろうか。
恐らくそんなことはしないだろう。
まず間違いなくその薬を捨てるはずだ。
医師は病院というホームにいなければ魔法を使えないわけで、これは大学教授でも会社の重役でも同じことなのである。
ホームから離れたところで相手に言うことを聞かせるのは、なかなか難しいことなのである。
もちろん、あなたがヒラ社員で、自分の個室がないとしても、自分のホームがないと嘆く必要はない。
会社近くの喫茶店を自分のホームとしてもよいからだ。
そして、上司に頼みごとをするのなら、「喫茶店で休みましょう」とでも言いながら、自分のホームに引きずり込めばよいのである。
あるいは、自分の机の周りをホームとしてしまい(自分の所有物をたくさん置いたりしてなわばりを示すことも可能)、自分の机の近くで上司の話を聞いてもよい。
優位空間は自由に作ることができるから、喫煙室であれコピー室であれ、好き勝手に自分のホームにできるのである(あなたが男性なら、給湯室に集まっている女性たちに威圧感を覚えたことはないだろうか?)。
ホームグラウンドで依頼・交渉・懇願を行えば、あなたの思うように相手を動かしやすいことは、心理学的に見ても間違いないのである。
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理由や裏づけさえあれば、人間は納得する
数年ほど前に日本各地で大雪が降ったことがある。
それにともなって、除雪用スコップが値上がりするということがあった。
大雪のせいで需要が高まるため、値段を上げても売れるだろうと読んだからである。
経済学的な観点からすると、金物屋のこうした行動は「当然」である。
需要が供給に対して上昇するときは、一般に価格は上がるものだからだ。
よって、これは経済学的合理性に基づく正しい行動だと言えるのである。
しかし、人々の感情という面から見たらどうだろう?
金物屋を「アンフェア」だと考えた人は少なくないはずだ……、「人の弱みにつけ込みやがって!」 「人の足元を見やがって!」。
もちろん、除雪用スコップは価格の上昇にもかかわらず売れたであろう。
だが、同時に、人々は金物屋に不快感を感じて「あの店はずるい」と感じたに違いない。
経済学的観点からすれば正しいとしても、心理学的観点からすれば正しくないのだ。
これでは、お客のリピート購買を促すことはできない。
「アンフェアな店」からは自然と足が遠のくからである。
「あの店はフェアだ」と認識されることが成功に不可欠であることは言うまでもない。
しかし、同時に、除雪用スコップの値段を上げた金物屋の行動もわからなくはないだろう。
では、いったいどうすれば価格を上げてもフェアだと思ってくれるのだろうか。
ここでは、その間題について考えてみよう。
始めに結論を述べてしまえば、
フェアだと感じさせたいのであれば、そこに何らかの理由をつけること
である。
理由や裏づけさえあれば、人間は納得するのだ。
ダニエル・カーネマンという心理学者たちが行った調査からは、理由さえあれば人々の「公正感」が上昇することがわかっているのである。
たとえば、カーネマンたちが提出した二つの問題を見てみよう。
間一:A社は利益をあげている。
A社はインフレではないが、会社は今年度の賃金給与の7%引き下げを決めた。
A社の決定は公正だと思うか、それとも不公正だと思うか?
間二:A社は利益をあげている。
A社はインフレ率が12%のため、会社は今年度の賃金給与の7%引き下げを決めた。
A社の決定は公正だと思うか、それとも不公正だと思うか?
異なっているのは、ただインフレかどうかである。
もちろん、インフレであればA社の賃金引き下げは妥当なものとなる。
実際、間一の場合にはこの会社が不公正だと答える回答者は62%もいた。
一方、問二では不公正と感じる回答者はわずか21%だったのである。
たった一つの理由がつくか否かで、人間の判断はこんなに違ってくるのである。
消費者は、わずかな違いで大きく動く。
理由もなく製品価格の値上げが見られると、いきなり売り上げが落ちるのはそのためである。
というのも、「何で価格を上げるのか」の理由がついていないからだ。
消費税が導入される時も、税率が増大する時も、「どうして消費税が必要かの理由がわからない」として政府に反感を覚える人が多かった。
「本当に必要なものであれば喜んで支払おう。
でも、本当に必要なのかどうかきちんと納得のいくように説明してくれ。
なのに「必要だ」とか「国民の皆さまのご理解とご協力を」と繰り返すばかりで、ちっともきちんとした説明がなされないではないか。
これでは「お上が決めたことなのだから、国民は黙って従え」と言っているようなものではないか」
などと思った方は少なくないはずである。
消費者が感じる「フェア感」「公正感」は非常に重要な要素である。
制服着用の習慣がないアメリカにホンダやトヨタが工場を作った時にも、理由をきちんと述べることで制服着用を義務づけることに成功した。
個性を大事にするアメリカ人でも、理由さえあれば皆と同じ制服を嫌がらずに着るのだ。
人間は自分にとってマイナスの要素があるものであっても、納得できる理由さえあれば広い心でそれを受けいれることができる。
だから、「仕方がないから」「当たり前だから」「あえて言う必要はないから」「面倒だから」と自分だけで納得してしまって(合理化してしまって)、他者への説明をおろそかにしないようにしよう。
客観的に、公平に見て納得できる理由を提示しようと努めること、少なくとも、自分の主張を丁寧に説明し、それに対する他者の言い分や反論に耳を傾ける姿勢を見せるだけで、「アンフェアだ!」との印象は避けることができるのだ。
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「フレーミング」の心理法則を用いて、相手の判断を枠にはめるテクニック
世の中には、値段のよくわからない商品というものがある。
宝石類や芸術品など、値段がどのようにつけられているのか、実際のところほとんどの人にはよくわからない。
また、化粧品のように、むしろある程度の価格をつけないと逆に売れない商品というものもある。
この「普通の人には実際のところがわからない」部分につけこむセールス・テクニックがある。
たとえば、家庭用の浄水器を訪問販売するセールスマンがいたとしよう。
彼の会社では浄水器を売る際に最低金額というものがあり、それ以上の値段で売り、儲けたぶんの何%かは歩合でもらえることになっている。
そのため、彼は普段から実際の値段の1.5倍の価格を客にふっかけているのだが、どうにもうまく業績があがらない。
あなたが彼の立場にあるとしたら、どのような手段を講じるであろうか?
実は、こうした状況にぴったりの「フレーミング」と呼ばれる心理法則が存在するのである。
[フレーミング]……自分に都合のいいように、巧妙に相手の思考の枠組みを操作するテクニック
たとえば、浄水器の最低価格が1万円であるとしよう。
そしてこれをあなたは3万円で売りたいと思っているとする。
この場合、自社製品の値段を言う前に、次のような世間話をしつつ、相手の思考の枠組みを作ってしまうのである。
「いやぁね、浄水器って高いものじゃないですか。
どんなに安くても5万円はするでしょう?
なかには○○さんの製品みたいに20万円もするのもありますしね。
でも、うちの製品はまったく同じ機能を持ってるのに3万円なんですよ。
なぜこんなに安いかというと、広告費をいっさい使っていないからなんです。
だから、この値段ですませられるんですよ」
浄水器の相場が実際に5万円であるか否かは関係がない。
ただそれが「普通の値段なのだ」と強調すると、たいていの人間は「相場はそれくらいなのか」と思ってくれるわけだ。
フレーミングによってあらかじめ相手の思考の枠組みを「浄水器の相場は5万円である」というふうに作ってしまえば、その後で「うちのは3万円です」と言った時に、ずいぶん安いなと感じてしまうのである。
フレーミングは科学的にも証明されている。
たとえば、ウィルソンという心理学者たちによって行われた面白い実験がある。
ウィルソンたちは大学生たちに白い紙を渡し、「4500」という数字を何十分も書き続けるようにと頼んだ。
一方、別の大学生たちには「ソファ」という単語を何度も書かせたのである。
その作業が終わったあと、両方の大学生のグループにアンケートが配られ、「この大学で四十年以内にガンになる人の数はどれくらいになると思うか」との質問がなされた。
この実験のミソは、「4500」という数字を書き続けて頭の中にしっかりと4500という数字が刻み込まれた人と、ソファという単語が刻み込まれた人とで、どのような違いが生じるかを見ることであった。
次の結果を見てほしい。
人々は、あっけなくフレーミングの餌食になっていることがわかるだろう。
というのも、はじめに「4500、4500、4500……」と書き続けた人は、無関係な質問であっても、4500という数字に引きずられた推定をしてしまうからなのである。
間: 「この大学で四十年以内にガンになる人の数を推定してください」
最初に「4500」と書き続けた群の推定値……平均3145人
最初に「ソファ」と書き続けた群の推定値……平均1645人
フレーミングは「アンカリング(anchoring)」との別名で呼ばれることもある。
「anchor」とは辞書的にいえば「錨(いかり)」や「係留点」などの意味であるが、ここでは「心の比較点」という意味で使われる。
人間の判断というのは、この比較点にしたがってなされているわけだ。
先ほどの浄水器の例で言えば、「浄水器の相場は5万円」が物差しになっており、その物差しにしたがって、後から言われた値段が判断されるのである。
どこに比較点の物差しを置くかによって、人の判断というのは大きく異なってくるわけである。
実は、われわれは知らず知らずのうちにフレーミングを用いている・用いられていることにお気づきだろうか。
広告やセールスであれば、
「普通の値段ですと……」 「従来の製品は……」「他社の製品は……」 「調査結果によりますと……」
などの枕詞がそれである。
一方、
「みんなそう言っているよ」 「ご近所の日一那さんはみんな家事を手伝ってくれているそうよ」 「ウチの部署ではこれが普通なんだ」
などと言って人を説得しようとしたことがあるかもしれない。
すべては相手の頭の中に思考の枠組みを作ろうとする、フレーミングの試みなのである。
特に、相手が実状をよく知らないほど、フレーミングは絶大な効果を発揮する。
そこにつけ込んでくる悪徳商法もあるが、フレーミングの知識さえ持てば「あ、この人は今、都合のいいように思考の枠組みを操作しようとしているな」と気づくので、だまされることはなくなるでしょう。
海外旅行をした人ならわかると思うが、日本のように値段がしっかり決まっており、しかも店員に頼んでも一切値引きしてくれないという国は少ない。
多くの国では、値段をふっかけられ、それから値段を安くしていくという買い物が普通なのである。
日本人は値段を言われると、「ああ、そうですか……」と潔く財布をあけてしまう。
それだけぬるま湯につかっているとも言える。
だからこそ、フレーミングを有効に使えば、思わぬ収穫を得ることもできるのである。
ちょっとずるいやり方だと思われるかもしれないが、これがグローバル・スタンダードなのだから、まったく恥じる必要はないのだ。
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