職場で部下のやる気を引き出す心理テクニック
トヨタの上司
トヨタは、社長や経営幹部など一握りのリーダーが、トップダウンで経営している会社ではない。
現場のリーダーを積極的に育成し、彼らが自律的に動ける環境をつくり、その能力を存分に発揮させている会社である。
トヨタでは、現場のリーダーをどのように育てているのか。
勤続40年以上の元現場責任者が証言する。
人間は、競争している時にはやる気が高まる
ビジネスは競争の世界である。
会社と会社の競争の場合もあるし、職場内で同僚たちと業績を競う場合もある。
一般に言えることだが、人間は競争している時には、やる気が高まる。
つまり、競争のない世界に生きているビジネスマンは、つぶさにやる気を失って隠居じみた感情にとらわれてしまうのだ。
「のんびりやろう」「ちょっと休もう」。
若いビジネスマンに多いこうしたつぶやきは、競争関係の少ない人に起こりがちである。
無難にノルマはこなすのだが、決してそれ以上の働きはしない。
「実力はあるだろうに、なぜ全力でやらないのか……」と歯がゆく思っている上司たちがどれだけたくさんいることか。
そこで、競争心をあおってやる気を出させる、意外な心理テクニックをご紹介しよう。
ロスとサミュエルスという心理学者の二人組は、どうすれば人々の競争心をかき立てることができるのか、という問題に真っ正面から取り組んだ。
といっても、彼らは意外と簡単な方法で、人々を競争的にできることがわかってしまったのだ。
それは、
競争心をあおり立てるには、「言葉を変える」だけでいい
ということだったのである。
つまり、二人で勝負するゲームをやらせるときに、同じゲームであるにもかかわらず、一方の人たちには「これは、ウォール・ストリート・ゲームといいます」と紹介し、もう嘉の人たちには「このゲームは、コミュニティ・ゲームという名前です」と告げてみたのである。
すると驚いたことに、ウォール・ストリート(世界経済の中心地)という名前を聞いた人たちの3分の2ほどが、いきなり競争的になり、大胆な勝負に出るようになったのである。
一方、コミュニティという名前を聞いた人たちのほとんどは、協力的で、安全な戦略しかとらなくなったのだ。
ボーデンハウゼンという心埋学者の実験例もある。
学生を被験者として模擬裁判を行ったところ、犯人の名前を「カルロス・ラミレツ(実際に存在した有名な犯罪者の名前を連想させる)」と紹介するか、「ロバート・ジョンソン(知的な人物を連想させる)」と紹介するかで、有罪宣告率がまったく違ってしまうという驚くべき結果が出たのである。
これもまた、言葉を変える効果を如実に示す例だ。
人間は、言葉によって影響を受ける。
したがって、従業員のやる気がいまいち高まらないのなら、部署名を攻撃的な名前に変えてしまうというのはどうだろう。
つまり、「人事部」とか「販売部」といったありきたりな名称ではなく、「先遣隊」とか「突撃隊」という名称に変えてみるのである。
バカバカしいと思われるかもしれないが、私はどこかの先進的な会社で、こうした実験を本気でさせてほしいと思っているくらいだ。
実際に「すぐやる課」という名称が流行しているではないか。
たとえば、人事部だったら「人を活かすための部署」、営業部だったら「お客様に喜んでもらうための部署」というぐらい簡単で、わかりやすく、ポジティブな意味合いを持たせた名称に思いきって変えてしまうのも悪くないと思うのだが、いかがだろう。
多くの会社で、ノルマ表や成績表などを壁に張ったりして、職場内の競争心を高める作戦をとっているであろうが、これは「半分」しか効果がないであろう。
今、半分しか効果がないと言ったのは、すでに成績上位にある人はますますやる気を高めるだろうが、成績の悪い人は、成績表を見るたびに「自分は駄目だなぁ」「給料泥棒だなぁ」と落ち込むだけという可能性があることだ。
もちろん、成績を競わせるというのも効果があるのだが、それだけではない、名称を変えるだけでも効果があるということを覚えておいていただきたい。
よく知られているように、国際間で戦争が始まると、敵側の国民は何らかの蔑称を与えられる。
アメリカ人は、日本人やフィリピン人、ベトナム人たちを「グーク」と呼んだし、日本人はアメリカ人を「鬼畜」と呼んだ。
こうした名前の変更は戦争状態の時に必ず起きる現象なのであるが、兵士たちの戦意を高めるには、こうした些細なところが、実に重要な意味を持っているのである。
もちろん、これはビジネスの場面にも使える戦略に違いない。
蔑称を用いるのはお勧めできないが、たとえば歴史上の戦いになぞらえて、自社側を「織田家」、ライバル会社を「今川家」だとイメージしてみるのも面白いかもしれない。
おかりだろうか、人間はほんの些細なことに、ずいぶんと影響を受けているのだ。
だから、部署名を変えるだけで競争心をあおったり、逆に協力心をあおったりできるわけだ。
このことは部署だけでなく個人にも当てはまる。
カウンセリングでは、「私はのろまでダメな人間なんです」と落ち込んでいる人には、「憤重なところがあなたの長所なんですね」というように、本人が短所と思っていることを長所だとしてフィードバックするテクニックがある。
そうすると、不思議なことに、本当に短所が長所に変わっていく、少なくとも短所が徐々に消えていくのである。
対象が個人であろうと、部署であろうと、ライバル会社であろうと、言葉によって「ラベル」をつける時には、慎重に、そして効果的に行うことを心がけよう。
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