自然と視線の移動を誘うテクニック
心理学辞典
心理学の全領域および関連する隣接諸科学の用語・人名を解説した、心理学辞典。
事項4021項目、人名347項目を五十音順に配列。
各項目における引用・参照文献と主著を著者のアルファベット順に配列した文献リスト、索引(和文事項、欧文事項、和文人名、欧文人名)がある。
会議では、何らかの資料が参加者に配られる。
そして会議の進行は、この資料に基づいて行われることが多い。
ひどい会議になると、参加者全員がこの資料に見入ってしまい、話し手やプレゼンテーターのほうを一度も見ない、という現象が起きる。
資料だけを見せるのなら、わざわざ人々が集まる必要はないのであるが、日本人だけが行う会議では、しばしばこうした現象が起きやすい。
もしあなたが会議を主導する立場にあるか、プレゼンテーションを行う役割にあるのなら、参加者が資料に釘付けになるのを避けるべきである。
というのは、いくら資料が優れていても、「あなた」という個人に関しては、まったくなんの印象も残すことができなくなるからである。
おそらく「無能」とまでは思われないにしろ、あなたに関しては「無関心」という状況に陥りかねない。
もちろん、これでは出世の道も遠のいてしまう。
業績の悪いセールスマンも、同じようなワナにはまっていることが多い。
つまり、相手に手渡した資料ばかりが注意を引いてしまい、あなた自身のことや、あなたの会話では、相手に興味を抱かせることができないのである。
そのため、「この資料をよく読んでから返事をしますので、今日のところはお引き取りください」と軽く扱われてしまうのだ。
アーガイルとグレアムという心理学者は、二人の参加者の間に地図を置き、ヨーロッパ旅行の計画を立てさせるという実験を行った。
すると、二人のアイコンタクトは、地図を置かない場合の77%からわずか6.4%にまで減少してしまい、相談時間の80%は地図を見たままで行われたという。
一概に視線を合わせることが必ずしもよいとは言えないが、視線を合わせなければ好意的な印象を与えることが不可能であることから考えると、これは好ましい事態とはいえないだろう。
さて、こうした事態を避けるには二種類の方法がある。
一つは、声のトーンをあげて注意を引く方法。
もう一つは、次に述べる「パワー・リフト」という方法である。
ちなみに、声を張り上げる方法は、資料を読んでいる相手を意識的に邪魔するテクニックであり、したがって、時として嫌がられる可能性が高い。
一方、パワー・リフトのほうはもっと自然な方法である。
ここでは、パワー・リフトについて説明しよう。
パワー・リフトというのは、ボールペンや指などを使い、相手の視線を資料からあなた自身へと、自然と視線の移動を誘うテクニックである。
「パワー」という言葉からわかる通り、パワー・リフトも、「パワー・プレイ」の一種である。
しかしながら、パワー・リフトは「パワー」という言葉に似合わず、相手に強制力を与えるわけではないし、洗練された自然な流れで実行可能であるという強みがある。
よくOHPやプロジェクターなどを使ったプレゼンテーションの場合に長い棒を持つのは、パワー・リフトを行うためなのである。
ただし、同じように棒を握っていても、相手の視線を動かすのがうまい人と、そうでない人はいるから、やはりある程度の訓練は必要であろう。
私は、会議参加者、あるいは顧客の手元に配る資料は、少なければ少ないほどよいと思っている。
資料を配らず、口だけで要点を説明して納得させるのが一番優れている方法なのであるが、口下手な人にはちょっとつらいかもしれない。
だが、資料に頼るビジネスマンは、えてして「資料負け」する傾向があるように思われる。
そのため、パワー・リフトを有効活用しなければ、好印象を与えることはできないし、自分の存在をアピールすることは難しいと言えるのだ。
優れた手品師は、人さし指を立てて話をすることで、観客の意識をうまく手の動きに向けさせる。
そして、観客の意識をはずしたところで、もう一方の手で隠された作業を行う。
もちろん、手品師の使うテクニックは、心理学的に言うとパワー・リフトであるが、それは誰にもわからないのである。
あなたが「影が薄い」という印象の人ならば、パワー・リフトで強烈なアピールを心がけよう。
そうすれば、周りの人はあなたに視線を向けるはずである。
本当の勝負はそこから始まるのだ。
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